経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は8日、東京・大手町の経団連会館で「いま、何を議論すべきなのか? −エネルギー政策と温暖化政策の再検討」と題した講演会を開催した。
東日本大震災により、広範囲にわたる発電所が被災し電力供給力が大幅に減少したことに加え、原子力発電の安全性への懸念等により定期点検を終えた原子力発電所の再稼働がスムーズに行われず、今夏やその先についても、電力需給がひっ迫する状況が続くおそれがある。このような状況に伴って、節電・省エネという需要面でも、電力供給の約3割を担い重要な位置付けとなっていた原子力発電の是非や再生可能エネルギーの導入という供給面でも、国民や経済界の関心がこれまでになく高まっている。
21世紀政策研究所では、かねて澤昭裕研究主幹を中心に、地球温暖化問題ならびにそれと密接な関係にあるエネルギー問題について、さまざまな検討を行ってきた。そこで、これまでの検討成果を踏まえ、エネルギー政策への関心の高まりに応えつつ、今後の政策のあり方を考えるうえで欠かすことのできない視点を提供することを目的に、澤研究主幹の講演会を開催した。
まず、開会あいさつで森田理事長は、「安全性の確保を大前提としつつ、『安定供給』『経済性』『環境』という3つの要素のバランスが重要」と述べるとともに、エネルギー政策の複雑さやその特徴を踏まえて「大震災からおよそ4カ月が経過したいま、実現性を考慮した冷静な議論が行われ、エネルギー政策が方向性を誤ることなく進められることが強く望まれる」と述べた。
講演する澤研究主幹 |
続いて、澤研究主幹が講演を行った。まず、エネルギー政策見直しにあたり整理すべき点として、(1)エネルギーの「安定供給」の確保(2)エネルギーの供給責任とコスト負担のあり方(3)安定供給を担えるエネルギー産業の編成――の3点を挙げた。
そのうえで、政策を立案、実施する責任として、「自然エネルギー20%ではなく、残りの80%の電力供給をどうするのか」「今夏と20年先だけではなく、3〜5年後をどうするのか」「東電か政府かではなく、被害者に対して連帯して責任を負う姿勢」が重要であると主張した。
電力の「安定供給の確保」については、「電源の種類、タイミング、供給主体、場所等の計画を策定し、反原発か原発推進かという対立的で不毛な論争に終止符を打つべき」と主張、エネルギーや電力の安定供給の重要性を強調した。
また、「供給責任とコスト負担」については、自由化が進展した際、需給がひっ迫していない平時は余剰となる設備を誰が所有・維持するのかという論点や、現在の原子力損害賠償スキームの問題点に言及した。現在、議論の俎上にある発送電分離については、多くの問題点があることを指摘し「安定供給を担えるエネルギー産業の編成として大規模化・統合化・総合化を検討すべき」と主張した。
講演の詳細については後日、21世紀政策研究所新書として刊行予定。