経団連(米倉弘昌会長)の企業会計委員会(廣瀬博委員長)は6月29日、東京・大手町の経団連会館で第1回会合を開催し、提言「国際会計基準(IFRS)の適用に関する早期検討を求める」を取りまとめた。概要は次のとおり。
グローバル化などを背景に、会計基準の国際化の動きが一層進展している。2008年には米国においても、将来的にIFRSの強制適用を目指すロードマップ案が公表され、会計基準の統一化に向けた動きが加速した。
経団連でもこうした動向を踏まえ、08年に金融資本市場の競争力強化などの観点から、わが国におけるIFRS採用へのロードマップ作成を急ぐべきと提言した。これを受けて、09年に取りまとめられた金融庁の「中間報告」では、12年をめどに強制適用の是非を判断することとされた。
こうした積極的な取り組みの結果、国際会計基準審議会(IASB)の基準設定における日本の発言権の強化、日本からIASBの監督機関であるIFRS財団やIASBへの継続的な人材輩出、IFRS財団サテライトオフィスの東京への設置など、IFRS財団におけるわが国の国際的なプレゼンスや一定の影響力が確保できつつあり、また、IASBの基準開発における日本の貢献も高く評価されている。
一方、IFRS強制適用の是非の判断を行うとされる12年を間近に控え、海外情勢の変化などを背景に、企業側の不安が高まっている。
海外情勢については、米国財務会計基準審議会(FASB)とIASBとのコンバージェンス(収斂)計画の一部遅延に加え、米国証券取引委員会(SEC)によるIFRS導入の検討についても昨今、にわかに不透明な点が出てきたことも事実である。また、IFRSを採用しているが、SEC登録企業には引き続き米国基準を容認しているカナダなど諸外国の最近の実情も踏まえる必要がある。
加えて、「中間報告」では、IFRSの強制適用を行うかどうかの判断時期を12年をめどとし、強制適用をする場合には、その判断時期から「少なくとも3年」の準備期間を置くこととされているため、早ければ15年の強制適用があり得るとの前提で早急に準備に着手しなければ間に合わないとの懸念も高まっている。特に米国基準採用会社については、09年の内閣府令改正によって、米国基準による連結財務諸表提出を容認する特例が16年3月期をもって終了することも強い心配につながっている。
さらに、既存の、あるいは開発中のIFRSのなかには、わが国にとって受け入れが難しい内容が複数含まれていることも大きな障害の一つとなっており、任意適用が開始して2年が経過しているものの、適用の動きはそれほど進展していない。
こうした状況を勘案すれば、IFRS強制適用の是非の判断にあたっては、海外情勢の再確認、IFRSを適用する場合の方法・手順、適用の対象範囲、日本基準における連結・単体のあり方なども含め、国際的な流れに十分配慮するとともに、日本の国益・国情に合致した対応を、幅広い関係者の納得を得ながら、的確に判断する必要がある。そのため、早期に企業会計審議会を再開し、総合的な検討を直ちに開始すべきである。
なお、企業会計審議会における検討は一定の時間を要することが予想されるため、その間に過剰な準備対応等が行われることのないよう配慮する必要があり、また、東日本大震災の影響も無視できない。したがって、仮に「中間報告」に則り、IFRS強制適用を行うと判断する場合であっても、その決定時から準備を開始すれば十分対応可能なだけの準備期間(5〜7年)を置くこと、同時に米国基準の特例取り扱いを引き続き容認すること、を早急に明確化すべきである。
また、上場企業といっても多種多様であるため、適用対象範囲を絞り込むための議論を行うことが現実的である。
さらに、IFRSの適用やコンバージェンスを進めるうえでは、わが国の経営実務や慣行、それを踏まえた会計の考え方等のグローバルな意見発信が重要であり、日本の主張がIFRSに適切に反映されていくよう、体制をしっかりと整え、わが国としての意見発信を一段と強化していく必要がある。