日本経団連は17日、「宇宙基本法に基づく宇宙開発利用の推進に向けた提言」を公表した。
政府は宇宙分野の施策の重点化を検討している。東日本大震災は未曾有の被害をもたらしたが、宇宙を活用した防災・減災や復旧・復興は国民の安全・安心の確保に貢献する。こうした課題を踏まえ、産業界の考えを取りまとめたものである。概要は次のとおり。
わが国では、2008年の宇宙基本法の制定などによって、研究開発だけでなく利用を重視した宇宙政策が推進されることになった。
一方、米国、欧州、ロシアに加え、中国やインドなどの新興国も国家戦略として宇宙開発利用に取り組んでいる。
国民生活の向上や安全保障の確保、科学技術の向上の観点から、わが国における宇宙開発利用の重要性は高い。
宇宙利用を進めるためには、宇宙インフラの構築と維持が必要である。
まず、国の責務として、衛星系、輸送系、地上系のインフラ整備や、生産・技術基盤の確立に向けた予算の確保・拡充に取り組むべきである。
東日本大震災を受けて、宇宙を利用した防災インフラの構築の必要性が高まっている。これにより、地上を代替する宇宙通信ネットワークの確保、衛星画像データによる被災状況の把握、測位衛星による地図情報の整備や災害情報の配信などの効果が期待される。
主要分野 | 具体的取り組み |
観測 | 地図作成、自然災害の把握、国土保全、温室効果ガス測定 |
測位 | 探索・救難や人命救助、携帯電話などへの位置情報サービス |
通信・放送 | 地上・衛星共用携帯電話システムの開発、スーパーハイビジョンの実用化 |
安全保障 | 衛星通信網の構築、情報収集や早期警戒機能の強化 |
エネルギー | 宇宙太陽光発電の研究開発や実証実験 |
有人宇宙活動 | 地上と国際宇宙ステーションの輸送システム能力強化 |
宇宙科学 | 天文観測や月・惑星探査、小型衛星の開発 |
輸送 | 次期基幹ロケット、小型ロケットの開発 |
宇宙産業の振興に向けては、(1)国際宇宙市場への進出(2)政府による安定的・長期的な調達の確立など宇宙産業戦略の策定(3)民間企業の宇宙市場への参入促進に向けた宇宙活動法の整備(4)国のトップセールスにより宇宙インフラを輸出するなど海外受注の推進――の4点が求められる。
政府の推進体制について、宇宙庁構想などを検討し、2012年度に独自の予算権限を持つ宇宙政策の推進組織を内閣府に設置すべきである。例えば、複数の準天頂衛星による自律衛星測位システムなど、多くの省庁が利用に関わる宇宙インフラの構築が課題である。
また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)についてはJAXA法を見直して、研究開発に加え、利用や産業振興を含めた機能を発揮させるべきであり、文部科学省に加えて幅広い利用省庁が共管すべきである。