日本経団連タイムス No.3036 (2011年3月24日)

グローバル法務戦略セミナー開催

−「ベトナムのジョイントベンチャーとM&A」テーマに/日本経団連事業サービス


第3回グローバル法務戦略セミナーで
講演する江口氏

日本経団連事業サービスは日本経団連と連携して2月28日、東京・大手町の経団連会館で、「グローバル法務戦略セミナー」(第3回)を開催した。同セミナーは、森・濱田松本法律事務所の協力の下に実施しており、今回はベトナムのジョイントベンチャーとM&Aをテーマに取り上げた。
講師の江口拓哉弁護士の説明は次のとおり。

■ ベトナムの法制度

ベトナムは大陸法型の法制度を採用しているが、企業法および土地制度をはじめ、同じ社会主義国家である中国法の影響を強く受けている。また、行政が広範な裁量権を持つ一方で、中央政府と地方政府の間、中央政府内の各行政機関の間は必ずしも連携が取れていないため、法令や通達の執行状況等について、その都度政府当局への確認が必要である。

■ 外国直接投資制度の概要

直接投資に際しては、「投資法」「投資法実施細則」「WTO加盟議定書」の規定の確認が重要となる。まず、外国直接投資は厳格に規制されており、外国企業が現地子会社を設立する際には、政府の許認可が求められる。業種により、禁止・制限されることもあり、例えば国防、治安および公共利益に損害を与える事業は許可されない。また、サービス業については、WTO加盟議定書に基づく規制緩和のロードマップを確認する必要がある。

■ 合弁会社設立の際の留意点

子会社の設立形式には、有限責任会社(100%外資会社・合弁会社)と株式会社の2つの形式がある。合弁会社を選択する場合、有限責任会社共通の留意点である、社員総会の決議要件や反対出資者の買戻請求権等に加え、次の4点への配慮が求められる。

  1. 土地使用権制度
    現地子会社は、土地の所有権を保有することはできず、土地使用権のみ保有できる。土地使用権には、毎年賃料を支払う「割当土地使用権制度」と、一度に全期間の賃料を支払う「払下土地使用権制度」の2種類がある。外国投資会社が払下土地使用権を譲渡できるかについては明確になっていない。
  2. 撤退の方法
    撤退の方法には、出資持分や株式の譲渡または解散がある。解散は許認可を必要としないものの、従業員の大量解雇や合弁相手との解散の合意は困難であり、税務調査も煩雑であることから、簡単には進まない。
  3. 法的救済の困難性
    外国企業にとって、ベトナムの裁判所で有利な判決やその執行を得ることは必ずしも容易ではない。そのため、合弁契約には、紛争解決手段として、シンガポールや香港での仲裁を規定することが考えられる。他方、相手方に十分な財産がなければ仲裁判断を執行しても意味がないため、和解を目指すことが現実的である。
  4. Win‐Win関係の構築
    日本の親会社、現地子会社、合弁会社等が公平に利益を得るWin‐Win関係を構築するためには、すべてのキープレーヤーを当事者として、その役割分担、意思決定や資金調達の方法、エグジット規定等について、詳細かつ具体的な契約を締結することが肝要である。

■ M&Aの留意点

外国子会社には一般的な卸売販売権が与えられないため、当該ライセンスを持つベトナム企業を買収しても、既存の事業を継続できないリスクがあるなど、許認可の問題には留意が必要である。また、内資閉鎖会社の株式取得の制限は撤廃されたが、上場会社株式の取得には49%の上限が設定されている。  M&Aを実施する際には、工場敷地および建物の安定的利用の可否など、典型的な問題点を押さえた法務デューデリジェンス(事前調査)を行うとともに、そのストラクチャリングについて、十分に検討する必要がある。

【経済基盤本部】
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