添谷教授 |
日本経団連が2月15日に開催した理事会で、慶應義塾大学法学部の添谷芳秀教授が、「安全保障環境の変化と新防衛大綱の意義」をテーマに講演した。
講演の概要は次のとおり。
第二次世界大戦後、米国優位の「自由で開かれた国際秩序」のなかで、各国は安全と繁栄を築いてきた。1970年代以降、中国もこの国際秩序を最大限に利用して発展し、それが今日の中国の台頭をもたらした。
今後、世界の中心が米国から中国へと移行すると考える向きもある。確かに中国のGDPが米国を追い越すことはあり得るかもしれず、中国の台頭によってパワーバランスは変化しつつあるが、中国中心の国際秩序が構築されることはないだろう。中国は「自由で開かれた国際秩序」の内側からその修正を求め、また国際法や制度を自国の利益を追求するために巧みに利用するだろうし、そうした動きはすでに起きている。
しかし、中国の軍事力および国家主権や領土問題での自己主張には大きな懸念を感じる。日本では、伝統的な安全保障への備えと経済面や文化面も含めたリベラルな外交の推進を対立軸でとらえる傾向があるが、台頭する中国が突きつける挑戦を前にし、両者を両立させることが決定的に重要になりつつある。日本は、安全保障上の課題に対しても万全を期す一方で、「自由で開かれた国際秩序」を維持するために経済面や文化面も含めたリベラルな外交に強みを発揮すべきだ。
官邸に設置された「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書「新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想」(2010年8月)、およびそれを受けて12月に決定された新しい防衛計画の大綱には、ともに「自由で開かれた国際秩序」への言及がある。「平和創造国家」を目指すべきとした報告書は、日本にとって重要な人道支援や災害支援、テロや海賊等への対応を制約しているという観点からも、武器輸出三原則等の見直しを提言している。
こうした日本の対応を戦略として体系的に組み上げていくためには、日本一国で何ができるかではなく、他国とどのような協力を推進していくべきかという発想に立つ必要がある。そうした視点からみた場合、伝統的安全保障への備えとしても、また「自由で開かれた国際秩序」の推進のためにも、米国との関係が基本になる。
そのうえで、東アジアでミドルパワーを自認する韓国やオーストラリア、さらにASEAN諸国と、文字どおり対等な立場からさまざまなレベルで協力を進め、「自由で開かれた国際秩序」を守り、発展させる必要がある。