日本経団連は9日、東京・大手町の経団連会館で、知的財産委員会企画部会(広崎膨太郎部会長)を開催した。
部会では、東京大学の渡部俊也教授から、「新興国市場を含む視座に立つ『新思考国家イノベーション戦略』の提案」と題し、説明を聞くとともに意見交換を行った。
概要は次のとおり。
近時、欧米のみならず、中国をはじめとする新興国においても、多様なイノベーション戦略が展開され、イノベーション創出に向けた競争が激化している。
特に、中国においては、模倣品・海賊版対策等の課題が依然としてある一方で、科学技術力を基盤とした強力なイノベーション(自主創新)政策により、研究開発活動が活発化している。同政策の成果として、中国人自身による特許出願件数が急増しており、特許侵害訴訟の増加や技術流通市場の拡大等、権利活用面での変化もみられる。
中国では、わが国を含めた外資企業の研究開発拠点が増加するとともに、中国企業自身が重要技術の特許を取得するようになってきた。これに伴い、世界が中国を見る目は、従来の「工場としての中国」「市場としての中国」から「研究開発拠点としての中国」へと変化してきている。わが国企業の中国における知財・標準戦略についても、同国のイノベーション関連施策を有効活用することや現地で生まれた発明をグローバルに活用することを念頭に置いた戦略に移行させることが必要となっている。
わが国においても魅力あるイノベーションインフラを備える必要がある。わが国政府ならびに政府機関の機能に限りがあるなか、すべてのインフラを自前で揃えることはできないため、国の施策であっても必要に応じ他国のインフラを利用する「オープンイノベーション」の発想に立つとの選択肢があり得るのではないか。
ただし、他国のインフラを効果的に活用するためには、組織的・戦略的な推進が必要である。そのための新しい取り組みとして、産学による民間組織をまずつくり、これに政府が協力するというかたちが適切だろうと考える。
意見交換では、「中国の国家標準策定の動きにいかに対応すべきか」「韓国の知財戦略・制度との差異をどうとらえるべきか」といった質問が出された。これに対し、渡部教授は、「中国の標準戦略はまだ試行錯誤の段階であり、わが国と中国との連携の余地がある」「韓国における政策決定のスピードの速さやインセンティブある制度設計にならって、わが国でも民間の要望が素早く政府の政策に反映されるような仕組みを構築すべきである」と説明し、産学による民間組織が必要であることに改めて言及した。
今後、企画部会では、わが国がイノベーションのハブとなるために必要な要件について、議論を深めていく予定である。