パネルディスカッションに臨む(左から)岩田研究 主幹、篠原副大臣、本間教授、齋藤研究副主幹 |
日本経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は3日、東京・大手町の経団連会館で第77回シンポジウム「戸別所得補償制度〜農業強化と貿易自由化の『両立』を目指して」を開催した。
冒頭、森田理事長が開会あいさつし、「農業の担い手の高齢化が進み、耕作放棄地の拡大が問題視されるなか、戸別所得補償制度(以下、「制度」)が果たしてわが国の農業強化につながるのか。さらにTPPを含めた貿易自由化の動きと両立し得る施策となっているのかを検証する必要がある」との問題意識が示された。
その後、21世紀政策研究所の農業プロジェクトの4名の委員から報告があった。
まず、研究副主幹の齋藤勝宏・東京大学大学院農学生命科学研究科准教授は、モデル分析による「制度」下の米価と補償額の関係、さらにはTPPに参加した場合の各国の厚生水準の変化および日本の各産業の生産額の変化の状況を示した。
次に、安藤光義・東京大学大学院農学生命科学研究科准教授から、「制度」の現場における政策的帰結と千葉県の実例を用いての担い手農家の実態に関する報告があった。
さらに、松下秀介・筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授から、実証データに基づく経営モデル分析により、「制度」による農地集積の促進要因と阻害要因が示された。
研究主幹の岩田伸人・青山学院大学経営学部教授は、WTO体制下の「制度」の位置付けを解説した後、TPPの特徴を示したうえで、こうした貿易自由化の動向を見据え、「制度」を2016年度から改変し、環境・国土保全に着目した直接支払い制度と対象を担い手に絞った「農業強化支援制度」に分けて政策目的を明確化することが考えられると提言した。
続くパネルディスカッションでは、篠原孝・農林水産副大臣と本間正義・東京大学大学院農学生命科学研究科教授が加わり、岩田研究主幹のモデレートのもと、齋藤研究副主幹を含め、4名による討議が行われた。
篠原副大臣は、TPPをめぐる政府および民主党の動向について紹介した後、麦、大豆、なたねなどの土地利用型作物は少しでも内外の生産性格差を縮めて、自給率を向上させる必要があること、米についても規模加算などにより10〜20ヘクタールの水田農家を育てることが大切であることなどを指摘した。また、「制度」は本来、農村全体の底上げをねらったものであり、農家が地域の特性にあわせて自主的に作付を判断することを支援するものであること、生産調整は“米を作らない”ようにムチを打つのでなく、“麦や大豆を作ってもらえる”ようにアメを出すものに変わったとの見解を示した。
本間教授は、「制度」はEUのように一定の構造改革が行われた後に行われるべきであったとし、水田農業については、食料基地として地域ごとの取り組みを重視しつつ規模拡大を図る面と、生産のプロセスをサービス産業としてみる面を分けて考え、特に前者のためには小規模農地の貸し出しを促進する積極的施策が必要だと指摘した。
シンポジウムを通して、TPPなどの貿易自由化の有無によらず、日本の農業がすでに危機的な状況であること、「制度」の政策目的が十分に理解されておらず、現場での効果にも影響を与えていることが明らかになった。同シンポジウムの詳細は21世紀政策研究所新書として年度内にまとめられ、また農業プロジェクトの研究報告書も今春、公表される予定である。