日本経団連タイムス No.3031 (2011年2月17日)

今後の農業・農政のあり方考える〜「経済連携問題をめぐって」

−生源寺・東京大学大学院教授から説明を聞く/農政問題委員会


日本経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で農政問題委員会(小林栄三共同委員長、廣瀬博共同委員長)を開催した。

政府の「包括的経済連携に関する基本方針」には、高いレベルの経済連携の推進が盛り込まれ、実現にあたっては国内産業の競争力強化等、さまざまな分野での抜本的改革の断行が不可欠である。とりわけ農業は、国民に食料を供給するとともに地域の基幹産業として重要な役割を果たしているにもかかわらず、政府の「基本方針」で示すとおり、「将来に向けてその持続的な存続が危ぶまれる状況にあり、競争力向上や海外における需要拡大等、わが国農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応が不可欠」である。

そこで同委員会では、東京大学大学院農学生命科学研究科の生源寺眞一教授から、「あらためて農業・農政のあり方を考える−経済連携問題をめぐって」と題して、農業を強くするための方策などについて説明を聞くとともに意見交換した。

■ 日本農業の活路

生源寺氏は日本の農業を強くするうえで、日本の農業の原点を確認し、できることとできないこと、また何が難しいのかを認識することが大事であるとして、まずミニマムの食料の供給力は国内農業で確保すべきとの考えを示した。現状の国内の潜在的なカロリー供給力は1人1日当たり2000キロカロリー程度とされるが、これを支えるのは農地と技術を備えた人材などであり、日本の農業が非常に厳しい状況にあるとの認識を示した。

また、規模別では1ヘクタール以下が約7割を占めている水田農業の現状を紹介したうえで、収入面やコストダウン効果の観点から、10〜20ヘクタール規模が標準となるようにすべきとの考えを示した。これを実現するための問題は農地制度にあると指摘したうえで、その法制度自体よりも運用の仕組みや運用組織の問題が大きいと述べた。

さらに生源寺氏は、「担い手政策」とともに、「明日の担い手政策」をきちんとつくる必要性に言及。これは法人経営など組織的な農業に期待される機能の一つであると述べた。そこで「明日の担い手」が一人前になったところで「担い手政策」の対象に移行することで、意欲と能力がある人たちすべてに開かれた政策とすることの重要性を強調した。

また、農業から食品産業など農業の川下の産業に多角化をしていくことも必要と指摘。加工により素材に付加価値をつけるとともに、自分で値決めできる商品につくり替えていくという意味でも重要であると述べた。

■ 「行うは難し」の直接支払い

生源寺氏は農業の競争力に関して、農業そのものの実力を高めていくことが重要と指摘し、単に補填するのみならず、日本の農業を強くしていくメカニズムを組み込んだ直接支払いが求められるとの考えを示した。これにより消費者負担型の農政から直接払いによる財政負担型農政に転換するが、そのためには国民に受け入れられるような説得力のある制度設計が必要であると述べた。

この点に関し、現行の戸別所得補償制度では生産調整を選択制にし、参加する人には補償をし、参加しない人はリスクを自ら負うという意味で合理的な面があると指摘したうえで、前政権下では担い手づくりにかなり力を入れていたが、この点については後退した、との認識を示した。

そして今後、関税が下がっていくことは避けられないとして、戸別所得補償の補償水準を徐々に下げていく代わりに担い手に対する支援策の厚みを逆に増していくような政策に切り替えていくことが重要と述べた。

一方、乳製品向け原料乳や麦、砂糖など、加工を経て消費者に届けられる品目については非常に難しい問題があるとも指摘。麦の場合、関税率がゼロになる分を所得補償し麦農家の担い手を守ったとしても、加工品や調製品などの輸入の動向次第では、麦の売り先の製粉メーカーに影響が出ることの可能性を指摘した。食品の加工・製造産業は比較的地方に立地し、安定した雇用機会を提供していることから、その影響をどう考えるかも重要であると述べた。

【産業政策本部】
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