21世紀政策研究所が開催した第76回シンポジウム |
日本経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は17日、東京・大手町の経団連会館で第76回シンポジウム「国際租税制度の世界的動向と日本企業を取り巻く諸課題」を開催した。
冒頭、森田理事長が開会あいさつし、「世界経済の急速なグローバル化および産業構造の多様化が進む状況の下、国際租税制度の問題点を見極め、解決策を見いだしていくことは、喫緊の課題である」との問題意識が示された。
その後、21世紀政策研究所の国際租税研究プロジェクトで研究主幹を務める青山慶二氏(筑波大学大学院教授)ら4名の研究委員による報告が行われた。
青山氏からは、近時グローバルビジネスの重点が、財貨取引からサービスおよび無形資産取引へとシフトしていることに伴い、源泉地国課税権の復権という視点から、国際課税ルール改正の動向について検討を加えたうえで、日本の多国籍企業が源泉地で直面する移転価格税制上の諸問題について、総論的な報告が行われた。
岡田至康氏(プライスウォーターハウスクーパース顧問)からは、昨年7月に改定されたOECD移転価格ガイドラインについて、その概要と意義が説明されるとともに、当面の問題および企業サイドとしての対応などについて指摘があった。
高嶋健一氏(KPMGパートナー)からは、従業員等を派遣したかたちでのサービス取引をめぐるPE(恒久的施設)の認定範囲、所得の計算方法などについて、実例を交えた検討が行われるとともに、新興国を中心とした進出先国でのサービスPEに関するリスクや対応策などについて指摘があった。
浅妻章如氏(立教大学法学部准教授 *当日は日本経団連事務局が代理報告)は、外国税額控除制度と国外所得免税制度について、それぞれの長所と短所を紹介するとともに、EUにおける資本参加免税制度の動向を踏まえたうえで、これとわが国のタックスヘイブン対策税制との関係について検討した。
一高龍司氏(関西学院大学法学部教授)は、近時の懸念事項である、わが国多国籍企業の事業等の国外移転に伴う日本の課税ベース維持を目的とする税制のあり方と限界について、仮説的事例をもとに、OECDや諸外国の動向を踏まえた検討を行った。
続くパネルディスカッションでは、「アジア進出先国(源泉地国)での国際税務の主要課題」をテーマに、日本を代表する多国籍企業の税務担当者らがパネリストとなって、中国やインドなどのアジア新興国における税務上の問題点について議論が行われた。パネリストからは、主としてアジア新興国での無形資産をめぐる課税処分の実態や、PE課税に関する諸論点について実例紹介とともに問題提起がなされた。
全体を通して、実務的な視点と学問的な視点双方からのアプローチを意識した内容のシンポジウムであった。同シンポジウムの内容をまとめた報告書は、年度内に刊行される予定である。