日本経団連は12月21日、東京・大手町の経団連会館で第8回昼食講演会を開催し、171名の参加のもと、朝日新聞の一色清編集委員から「メディアが違えば報道は違う」と題した講演を聞いた。講演概要は次のとおり。
テレビは視聴率1%が100万人に相当すると言われ、人々に届く力が大きいが、その分、テレビで主張するのは難しい面がある。新聞は主張するメディアであり、重要なテーマについては社内での議論を通じて一定の主張をしている。テレビでは、あるニュースについて議論を積み上げて結論を得ることはしないし、バランスが求められる。例えば、私が「消費税については早く議論を始めるべきだ」と発言することがあるが、キャスターは「それより先にやることがある」との意見を紹介し、バランスを考えている。
また、テレビでは視聴率を気にせざるを得ず、番組を制作する際には「絵になる」ニュースの方が取り上げやすい。経済関連のニュースは「絵がない」ことが多く、テレビで大きく取り上げにくい分野だ。リーマン・ショックの後に経済関連のニュースがトップになった時期も「絵がない」ので苦労していた。他方、新聞では、読まれるかどうかよりも各社が重要だと考える記事を大きく取り扱っている。「テレビがポピュリズムに走り、新聞は独善的に紙面をつくっている」というのではなく、新聞とテレビの性格の違いであると理解すべきだろう。
2010年6月から、WEBRONZAという朝日新聞のウェブ上の有料マガジンを担当している。WEBRONZAでは、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏をインタビューした際に「ニコニコ動画」で中継したり、報道ステーションで日産のカルロス・ゴーン社長にインタビューした際のテキストをそのまま載せたりしている。
ウェブの特徴は、コストが安いことである。紙の雑誌で必要な紙・印刷・流通・販売コストは不要であるし、文量や締め切りの自由度も高くて原稿料相場も安い。他方で、ウェブでは課金は難しいし、認知されにくいという難点もある。
国内では、日本経済新聞が電子版を充実させようとしている。アメリカやヨーロッパでは、有料の電子新聞が普及している。日本でも新聞の電子化は徐々に進み、すぐには無くならないだろうが、紙新聞の縮小は避けられない。
テレビも安穏としていられない。若者のテレビ離れが進む一方で、通信による動画配信も進んでいる。例えば、ニコニコ動画はテレビよりも少ない機材やスタッフで中継でき、撮影・放送中に、パソコンを通じて一つ一つのコメントに対する書き込みをリアルタイムで見ることができる。
これから10年の間に日本のメディアは大きな変化に晒されるだろう。当面は、新聞・テレビ等の既存のメディアとウェブのメディアは、互いに補完し合いながら融合していく動きを見せるだろう。