講演する棚橋氏 |
日本経団連事業サービスは12月1日、日本経団連と連携し、東京・大手町の経団連会館で森・濱田松本法律事務所弁護士の棚橋元氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、最終回となる今回のテーマは「M&A」。棚橋氏の説明は次のとおり。
M&Aとは、会社・事業の移転を伴う取引行為である。具体的な手法として、株式取得、事業譲渡、合併等組織再編、それらの組み合わせなど、多様な選択肢があり、また、会社法、金融商品取引法、独占禁止法、労働法、知的財産法、特別法等さまざまな法分野に関係する。近時、単に法令にとどまらず、関係当局のガイドライン、MBO指針に代表される各種指針、多数の裁判例が登場しており、M&Aをめぐる法環境は、加速度的に複雑化してきている。
公開買付けとは、不特定かつ多数の者に対して、取引市場外で株券等の買付けを行うことである。金融商品取引法上、発行者以外の者が有価証券報告書の提出義務がある者の株券を買付ける場合には、公開買付けによらなければならない。この規制の目的は、会社支配権等に影響を及ぼし得るような一定の証券取引について、買付けの対象となる投資家に対して情報と熟慮期間を与えること、および株主・一般投資家に公平な売却の機会を与えることにある。ここ数年金融庁は規制の間隙を埋めるため、急速な買付けや公開買付期間における競合買付けなどについて新たに法令で規制するとともに、実務で行われていた一定の手法について規制の対象となることをガイドラインで示している。規制不遵守のペナルティーとしては特に課徴金に注意を要する。
会社法は、M&Aの手法の一つである組織再編を経営陣の裁量のもとに幅広く認めている。組織再編は、会社の基礎的変更に関する事項であるため、簡易再編・略式再編を除き、原則として株主総会の特別決議が必要である。一方、特別決議があれば、取引に反対する者に対しても強制できることを意味する。この点からは実務上も株式買取請求権が重要となる。さらに、組織再編対価の柔軟化により、例えば現金交付合併・株式交換、親会社株式交付による三角合併も可能であり、最近日本企業による三角合併の手法を用いた外国企業の買収が遂に登場した。ただし、組織再編成税制との関連で、実務上は、現金交付のスキームはあまり頻繁には利用されていない。
MBOとは、現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入することである。MBOが実施される背景として、中長期的視点での経営の確保や上場維持コスト削減など、経営陣による株式の非公開化の意向が挙げられる。また、投資ファンド、金融機関、メザニン投資家などの資金提供者の存在により、多額の買収資金の調達ができるようになったことも、MBOを後押ししている。問題点としては、株主の利益を代表すべき経営者が買主たる地位に立つため、利益相反関係が存在し、価格の公正性を問う裁判例も多数登場している。MBOを遂行するに際しては、いかに独立当事者間の取引として公正な手続きを踏むかがポイントとなる。