講演する武藤癌研有明病院名誉院長 |
日本経団連は1月21日、東京・大手町の経団連会館で第4回昼食講演会を開催、131名が参加した。今回は癌研有明病院の武藤徹一郎名誉院長を招き、がんを克服するための方策等について講演を聞いた。講演概要は次のとおり。
がんにかかると治らないと思われがちだが、早期発見ができれば治療は可能である。ただし、がんは発生してから症状が出るまで数年かかり、症状が出た時には手遅れの場合もある。治療のためには、早期発見が重要である。加えて、最先端の器具を利用して手術を行うことができる病院を選ぶ必要もある。
がんが局所的なものであれば手術で治すことができる。早期に手術する方が存命率は高い。他の部位に転移したら手術では根治できなくなる。
ハーバード大学の発表によると、がんの要因の30%はたばこ、30%は食事である。また、国立がんセンターの資料によると、口腔・咽頭がんの61%、喉頭がんの96%、肺がんの72%は、たばこが原因である。しかし、科学的な根拠に基づいて「絶対にがんにならない」といえる方法はない。食品や栄養はバランス良く取ることが重要であり、過度に情報に振り回される必要はない。何か一つの食品を過度に取るのではなく、生活習慣や食習慣を改善させることだ。野菜や果物を取れば口腔・咽頭・食道・胃のがんになるリスクを下げることができ、運動を行うことで大腸がんになるリスクも下げられることはわかっている。
がんの早期発見のためには、がん検診や健康診断を受けることがカギとなる。第40回がん征圧月間スローガンは「生活見直し 若いうち 壮年からは がん検診」である。しかし、がん検診を受けるインセンティブがある英米と比較すると、日本のがん検診の受診率は低い。がん検診を受けない理由は「たまたま受けていない」「健康状態に自信があり、必要性を感じない」「時間がない」「面倒」などであり、「がん検診は自分のため」と説明しても、あまり受診率は上がらない。政府はがん対策基本法のなかで検診受診率の向上を目指している。
がん対策基本法は、がんの予防と早期発見の推進、がん医療の均てん化の推進、研究の推進を柱に掲げ、これに基づいて「がん対策推進基本計画」が制定され、閣議決定されている。この計画では、検診受診率を50%とする等の目標を掲げ、がんによる死亡率を20%減少させることやすべてのがん患者・家族の苦痛の軽減、療養生活の質の向上を目指している。
こうした国の取り組みに力を得て、癌研有明病院は、高度先進医療、難治がんへの挑戦、国際化への対応をコンセプトに、がん治療において世界に誇る病院となることを目指して取り組んでいる。臓器別のチーム医療を行いつつ、新しい治療法については、各チームが連携する会議や治験審査委員会などの意見を得て判断、実施される体制を導入している。癌研有明病院は、健康診断、診療から緩和ケアまで一貫した取り組みを行っていく。