日本経団連は11月26日、東京・大手町の経団連会館で第3回昼食講演会を開催、170名が参加した。今回は経済評論家・公認会計士の勝間和代氏を招き、日本が抱える課題や解決に向けた方策について講演を聞いた。講演概要は次のとおり。
世界同時不況の回復から日本だけが遅れている。これは、日本の将来展望が明るくないためであり、著名な投資家たちが、日本の最大の問題は少子・高齢化の進行だと指摘している。第一次ベビーブームのころは出生数が270万人だったが、2005年の出生数は106万人まで減少している。日本の人口は徐々に減少しており、その減少幅はどんどん大きくなる。また、高齢化率は1967年に人口が1億人を突破した時は6.6%であったが、再び人口が1億人となる2050年には35.%になり、年金や医療費の増大が問題となる。少子・高齢化を止めるためには、若者への過少投資を改め、男女共同参画を進めることが必要である。
新成人の意識調査では、4割以上が将来を悲観的に考えていることが示されている。中高年の方から「自分たちが若い時は貧しかった」「今の若者には覇気や夢がない」との意見が寄せられることもあるが、「若者にやる気がないからチャンスがない」のではなく、「若者にチャンスがないからやる気を失っている」のである。新しい力の原動力となるのは若者の自由な発想であり、ノーベル賞受賞者の多くは受賞対象となる研究を20代後半〜30代前半に始めている。若者でも斬新なアイデアによる新規事業の成功例もある。
若者にチャンスを与えないのは国家の損失であり、教育費への財政投資を増やすべきだ。かつての日本の国公立大学の学費はヨーロッパ諸国と同じように低かったが、段階的に値上げしたため、特に貧困層の教育の機会が失われ、格差の拡大に拍車をかけている。
経済を良くするためには、所得を増やすことと、消費のために使う時間が必要となる。今の日本には、所得はあっても消費のための時間がない人か、時間があっても所得の少ない人しかいない。男女共同参画の推進により、この不均衡を是正することができる。日本の労働生産性は主要先進7カ国中で最下位であり、労働生産性の低さを長時間労働で補っている。ヨーロッパでは、1週間の勤務時間は40時間に抑え、家族で週に3〜4回は揃って夕食をとることを目指し、男女共同参画を通じて時間と仕事の両方を男女で分け合うようになった。ヨーロッパでは、日曜日に店が空いていなかったり、新しい商品があまりなかったりして不便ではあるが、ささいな便利さのために毎日11時過ぎまで働く環境と、多少の不便さは我慢しても毎日6時に帰宅する環境を比較して考えてほしい。
経済学の視点で考えると、子どもを持つことの効用が下がる一方で、教育費の増加や母親の就業機会の逸失等により子どもを持つコストは上がっている。また、2万人を超える待機児童がいることが示すように、働く女性のための社会基盤が整っていない。さらに、日本の男性は育児等にかける時間が少なく、「男性が仕事をして女性は家を守るべき」という意識を持っている。
日本が抱える課題は、一人ひとりが価値観を変えて地道に取り組まなければならない問題である。無理せずにできる範囲内で少しずつ取り組みを進めてほしい。