日本経団連タイムス No.2973 (2009年11月5日)

EUの有期労働契約法制の動向について

−労働法規委員会労働法企画部会


日本経団連の労働法規委員会労働法企画部会(庄司哲也部会長)は10月22日、東京・大手町の経団連会館で会合を開き、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員からEU(欧州連合)の有期労働契約法制の動向について説明を聞いた後、意見交換を行った。

■ 濱口統括研究員説明

EUの有期労働指令は、EUレベルの労使団体(欧州産業連盟、欧州労働組合連合および欧州公企体センター)の締結した労働協約をそのまま指令化したものであり、他の指令と同様、加盟国の国内法に転換されている。

同指令の柱は二つあり、一つは比較可能な常用労働者との「非差別の原則」(第4条)である。雇用条件に関して、有期労働者は、有期雇用契約を有するというだけの理由では、客観的な根拠によって正当化されない限り、比較可能な常用労働者よりも不利な取り扱いを受けない。適当な場合には、時間比例の原則が適用される。特定の雇用条件の取得に必要な勤続期間資格は、客観的な根拠によって異なった期間が正当化されない限り、有期労働者についても常用労働者と同じでなければならない。

もう一つの柱は「反復継続利用による濫用の防止」(第5条)である。有期雇用契約の反復更新から生ずる濫用を防止するために、加盟国は、(1)そのような雇用契約の更新を正当化する客観的な理由の規定(2)反復継続的な有期雇用契約の最長総継続期間の制限(3)そのような雇用契約の更新回数の制限――のうち一ないしそれ以上の措置を取ることとされている。

EU指令はあくまでも最低限を定めたもので、同指令についても、反復継続利用の規制方法は大幅に各国レベルでの決定に委譲しており、その実態はさまざまである。例えば、一つの雇用契約と次の契約との間の期間(クーリングオフの期間)の長さは、各国で異なった決め方をしている。また、同指令は反復継続利用の局面では規制しているが、はじめに有期労働契約を締結する場面には関与していない。このためEU加盟国の約半数(イギリス、オランダ、ベルギーなど)では有期労働契約の締結事由に制限は設けられていない。一方、フランス、ドイツなどでは有期労働契約の締結に客観的な理由が必要とされている。

このほか、雇い止めについて、EUでは雇い止めは解雇とみなされるが、EUの多くの国では解雇紛争は最終的には金銭補償によって解決することが多い。

同指令は1999年に施行され、2004年から同指令の解釈に係る事案が欧州司法裁判所に係属されるようになり、06年以降いくつかの判決が出されている。これら事案はすべて公的部門の有期契約に関わるもので、民間企業の事案とは異なった面もあるが参考になる。

【労働法制本部】
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