日本経団連タイムス No.2970 (2009年10月15日)

電子私書箱・社会保障カード構想の説明を聞き意見交換

−情報化部会・電子行政推進部会が合同会合


日本経団連の情報通信委員会情報化部会、電子行政推進委員会電子行政推進部会(遠藤紘一部会長)は6日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、東京工業大学大学院理工学研究科の大山永昭教授から、電子政府と社会保障カードについて説明を聞いた後、意見交換した。大山教授の説明概要は次のとおり。

ICT(情報通信技術)が提供する利便性、正確性、効率性等をすべての国民、住民が安心して享受できるよう、電子政府、電子自治体の構築が推進されている。
電子政府の推進にあたって霞ヶ関では、CIO(=Chief Information Officer、最高情報責任者)、CIO補佐官等の設置や業務・システム最適化、調達ガイドラインの発行が行われている。また、政府のIT戦略本部評価専門調査会では、利用率の低いシステムの停止勧告や特別テーマ(結婚、妊娠、出産、育児)に伴う手続きのワンストップ化の可能性調査を行ったほか、ユーザビリティー向上に向けたガイドラインを発行した。政府CIOの設置やクラウド技術の導入、電子私書箱の導入といった新たな取り組みも検討されている。

■ 社会保障カード

2011年度に、1人1枚、年金手帳、健康保険証、介護保険証を兼ねる社会保障カードの発行を予定している。20歳未満は健康保険、20歳から39歳までは年金が加わり、40歳以上ではさらに介護保険が加わるICカードが想定されている。
社会保障カード導入によって、主に2つの効果が期待できる。1つ目は「情報アクセスの基盤としての効果」である。具体的には以下の3点が挙げられる。1点目は自己情報の容易な入手・活用である。年金記録、レセプト(医療費)情報、特定健診情報等について、いつでも自宅等からオンラインで確認・入手して生活設計や健康管理に活用できるようになる。2点目は利用者への情報提供である。例えば保険給付・適用手続きや社会保障に関するさまざまな情報提供が可能となる。3点目は自己情報の管理・安全性確保である。自分の情報を管理・活用することで、年金記録の安全性や正確性の確保、ワクチン接種や薬の服用の記録管理も可能となろう。
導入効果の2つ目は「情報連携の基盤としての効果」である。まず、利用者や保険者の負担軽減が可能となる。利用者にとっては、1枚のカードで年金、医療、介護サービスのさまざまな役割を果たすことが可能となり、保険者は保険証を発行する事務等が不要となる。また、医療機関等では、オンラインでの医療保険資格確認やレセプト等への自動転記が可能となり、医療費の過誤調整事務などの負担が軽減される。さらに、制度や保険者をまたがって利用者の特定が可能となることにより、例えば高額医療・高額介護合算制度といった制度をまたがる事務が効率化され、手続きのワンストップ化や添付書類の削減が可能となる。
社会保障制度の各々の個人情報をリンクさせるためには、番号を統一していくことが必要だが、そのためには社会の受容性が重要である。また、既存の番号を入れ替える作業には膨大な費用とリスクが生じる。そこで、各々のデータをひも付けるためのデータベースに個人別のアカウントを設けることが考えられる。これを拡大したものが電子私書箱である。

■ 電子私書箱

電子私書箱では、分散管理されている個人情報への安全なアクセスを可能とする認証情報等を個人アカウントに記録することや、郵便と同じように電子署名された電子文書の双方向通信を行うことができる。希望者には、社会保障カードの機能を発展させて電子私書箱サービスを提供することとなる。さらに、電子私書箱には、住基カードを利用することが考えられる。住基カードと社会保障カードを一体化することで、経費削減を図るとともに、より便利なカードを目指すべきと考えている。
電子私書箱の導入により以下の4点が期待できる。1点目は行政の事務効率化である。2点目は国民の利便性の向上、具体的には結婚、妊娠、出産、子育てにおける各種手続きのワンストップ化や引っ越し、退職手続き等のワンストップ化、行政によるプッシュ型お知らせサービスの実施などがある。3点目は本人情報が本人に開示されることにより、行政の透明性向上につながることである。4点目は行政が保有する情報を本人がいつでも確認できることから、年金情報などの正確性が確保できることである。内閣官房では、電子私書箱で約4600億円、引っ越しと退職のワンストップ化で約2200億円の費用削減効果を見込んでいる。
国民にとってより利便性の高い電子政府とするには、中央政府のみならず、自治体、社会保障を含む公共分野を広くカバーすべきである。そのためには強力なリーダーシップ、トップダウンが不可欠である。

<意見交換>

引き続き行われた意見交換のなかで、「国際的にみて日本が見習うべき点は何か」との質問に対し、「欧州諸国には見習うべき点が多い。結局、電子政府はそれぞれの国の社会システムに合致したシステムとなる。日本が見習うべきなのは、トップダウンの重要性である。各国の電子政府の推進でもボトムアップでうまくいった例はない」との回答があった。

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日本経団連では11月上旬を目途に電子政府推進に関する提言を取りまとめ公表する予定である。

【産業技術本部】
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