日本経団連は9月10日、東京・大手町の経団連会館で産業技術委員会科学技術政策部会(東実部会長)を開催した。同部会では、政府の第4期科学技術基本計画(2011年度〜2015年度)の策定をにらみながら、わが国の科学技術・イノベーション政策の中期的なあり方について検討を進めている。その一環として、東京大学先端科学技術センターの菅裕明教授から、アメリカの大学院における教育・教育システムについて説明を受けるとともに意見交換を行った。菅教授の説明の概要は次のとおり。
アメリカにおいては、大学院教育を将来のキャリアパスへの投資と位置付けている。博士を含め企業への就職が多いことから、学生に対し、将来の活躍の場を見極めさせるメンタリングを重視するとともに、コアコースの履修、プレゼンテーションやプロポーザルの訓練、キューム(抜打式筆記試験)等によるプロフェッショナル教育を展開している。また、学生の経済的自立の観点から、博士課程の学生に対する経済的サポートが手厚く、全学生が、ティーチング・アシスタントやリサーチ・アシスタントとして、授業料免除や研究報酬を大学側から受けている。
アメリカでは、テニュアと呼ばれる大学への終身在職権を付与する制度が特徴的である。テニュアは大学に残る強いインセンティブとなり、研究者はテニュア獲得に向け厳しい競争を展開する。また、大学研究者の給与は原則(年間)9カ月分であり、外部からの研究資金獲得へのインセンティブが強く働く。加えて、准教授クラスは、スタートアップ資金として多額の資金を大学から提供されるが、その資金は研究者が獲得した外部研究費から回収され、大学ならではの事業モデルが確立している。
アメリカの大学システムは、学生を早くから経済的にも自立させる教育制度や研究者のテニュア制度に支えられている。アメリカの制度をそのままコピーするのではなく、優れた点をうまく取り込むべきである。日本の大学は、コアコースや専門に限定されない基礎学力獲得のためのカリキュラム策定、博士課程におけるプレゼンテーション、プロポーザル、リーダーシップなど職業研究者としての能力育成、就職活動のあり方等が課題である。また、学生にとっての博士課程進学の魅力向上の一環として、奨学金やティーチング・アシスタント制度等による経済的支援の充実が不可欠である。