日本経団連の社会貢献推進委員会(古賀信行共同委員長、佐藤正敏共同委員長)は7月30日、東京・大手町の経団連会館で、明治大学経営学部の塚本一郎教授から、「英国・米国における社会貢献ビジネスの動向」をテーマに講演を聴いた。講演の概要は以下のとおり。
近年、CSRのコンセプトがステークホルダーの社会的関心に反応する「応答的CSR」から、競争優位の観点に立ち企業が取り組む社会問題を選択する「戦略的CSR」へと変化している。これに伴い、CSRの一構成要素である社会貢献も、社会的課題の解決のために自社の資源を投入する活動から、企業ブランドの差別化を目的とした「戦略的社会貢献」へと変化しつつある。
本来、企業の競争力は、活動する地域の状況に強く依存しており、社会の改善は企業の生産性や競争優位性に貢献する。企業利益と社会の利益は対立するものではなく、相互依存の関係にある。
この点、戦略的社会貢献は「企業の寄付行為や社会貢献活動を、企業全体のミッション、目標、目的などと最もよく適合するような方法で設計するアプローチ」と定義される。その例としては、コーズ・リレーティッド・マーケティングやソーシャル・マーケティングが挙げられる。
このような戦略的社会貢献は、社会貢献とビジネスの接近、あるいは両者の統合とともに、非営利セクターの商業化促進も内包している。
公共セクター、企業セクター、非営利セクターの活動は重なり合う部分があり、組織的な性格においても、それぞれが近付きつつある。例えば、「ビッグイシュー」(1991年に英国で誕生)は「社会的目標」と「経済的目標」の両者を持ち、営利を追求しながらもホームレスの生活向上をめざしている。
このように社会貢献を本業とする企業を「社会的企業」(ソーシャル・エンタープライズ)という。社会的企業の特性として、市場からの資金調達のみならず、寄付やボランティアといった多様な資源(非市場的資源)を活用している。また、組織形態も多様であり、株式会社がNPO法人を持つなど、法人形態によっては一概に区別できない。
「社会的企業家」(社会的企業の経営者)は営利企業の企業家とは異なり、社会課題を解決するためにビジネスの手法を用いる。社会的企業のミッションは、ホームレス、ニート、麻薬依存、知的・精神的障害などのソーシャル・エクスクルージョンにおける課題の解決を主としている。また、貧困地域や衰退地域の経済活性化や雇用創出の役割も期待されている。
このような社会的企業が英国や米国で台頭してきた背景には、NPOの商業化、政府に代わる公共サービスの提供者・社会的資本形成(特に雇用創出能力)への期待、CSRへの関心の高まりがある。営利と非営利、ビジネスと社会貢献の境界が曖昧になる中、社会的責任を超えて社会貢献を本業とする社会的企業に注目が集まっている。CSRという視点を捨て、企業と社会の統合という視点から社会貢献を考え、CSRを共有価値の創造と認識することで、ビジネスにおける劇的な変化が起こるであろう。