日本経団連(御手洗冨士夫会長)の国民生活委員会(岡部正彦共同委員長・岡本圀衞共同委員長)は7月29日、東京・大手町の経団連会館で、尾身茂自治医科大学教授(政府新型インフルエンザ対策本部専門家委員会委員長)から、「新型インフルエンザ(A/N1H1)をめぐる対応と今後の課題」について説明を聴き、意見交換した。
尾身教授はまず、感染症の大流行に備えた対策のあり方として、「ワクチン等の医療の確保に加え、学校の閉鎖といった医療以外の公衆衛生対策が必要であり、非常事態との認識のもと国民全員の参加が求められる総力戦である。歴史的にみても、学校等の閉鎖による感染拡大防止の効果は明らかである」と説明。その上で、今回の新型インフルエンザウイルスについて、「1918年のスペインインフルエンザに由来するもので、ほとんどの人は免疫を持っていないと考えられる。若い年齢の人が感染しやすく、多くの人は軽症で治癒するものの、基礎疾患のある人や妊婦、健康な若い人の一部が重症化するという特徴がある」と説明した。
政府の対策については、「全国的な感染拡大を受け、政府の対策も当初の水際作戦から国内対策にシフトしている。感染症対策は早期の状況把握が要である」とした上で、感染拡大の状況については、「6月以降の拡大をみると、学校という一部の集団から地域へ拡大したことが示されている。感染は国内において急速に拡大している。ウイルスの変化により感染力が強化される可能性もあるので、監視の必要がある」との見解を示した。また、世界的な感染拡大の中、日本において死亡者が発生していない(7月23日時点)理由としては、学校閉鎖等により、地域への拡大を他国に比べ抑制したことやタミフルの備蓄が豊富であったこと、手洗いなどの国民の予防意識が高いことなどを挙げた。
ワクチンに関しては、「ワクチンは新型インフルエンザ対策の重要な要素であるが、万能薬ではない。量的な限界、時間的な限界もある。また、誰に優先的に接種するかといった問題も大きい」と説明。「今後の課題は、(1)サーベイランスの徹底(2)医療供給体制の整備(3)ワクチン製造と接種の優先順位の決定――である。大切なのは、感情的にならず対応することであり、対策が効果を上げるためには、国民一人ひとりの協力が重要」と強調した。
講演後の意見交換では、「今回の新型インフルエンザは、今後、感染が拡大することが想定され、対策の継続が必要である」と注意を促した。また、鳥インフルエンザについては、「鳥インフルエンザは最も病原性が高く、現在でも鳥の間で拡大を続けている。今回の豚インフルエンザと合体して、ヒトへの感染力を獲得する可能性もゼロではない。季節性インフルエンザワクチンと豚由来の新型インフルエンザワクチンの製造が一段落した後、鳥由来の新型インフルエンザワクチンも製造する必要がある」と説明した。