日本経団連は7月28日、東京・大手町の経団連会館で昼食講演会シリーズの第1回を開催、266名が参加した。昼食講演会シリーズは、「経団連クラブ」講演会の装いを改め、全会員企業を対象に、経済・社会問題から科学・歴史問題まで、経済人の関心が高いテーマを幅広く取り扱うものである。第1回は、ボストン コンサルティング グループ日本代表の御立尚資氏を招いて、「変化の時代のリーダーシップ」について講演を聴いた。御立氏の講演概要は以下のとおり。
今回の経済危機のような「大波」の向こうにある「潮流」を見て対応することが重要だ。「潮流」としては、金融経済と実体経済の関係性の見直し、インターネットの発達と情報の経済性、識字率の向上と資本の自由化による万国「工業社会」化の進展、そして経済成長よりもサスティナビリティーをめざす考え方などがある。
木戸孝允(桂小五郎)、福沢諭吉、坂本龍馬、井上馨、山縣有朋、高杉晋作、伊藤博文などの幕末のリーダーたちは、徳富蘇峰が1887年4月に刊行した「新日本之青年」で“天保の老人”と称された。
組織のリーダーには、徹底的に感情を排して理屈で損得を考えることや、「思い煩うべきこと」と「思い煩うべきでないこと」を見極めることが求められる。天保の老人たちは情ではなく理で考えることができた。例えば、坂本龍馬は尊王攘夷論者だったが、勝海舟に理を説かれて開国・富国強兵を求めるようになった。
また、「知る、学ぶ」ことも重要である。高杉晋作は、上海、長崎で多くの米国人に「なぜアヘン戦争で清が負けたのか」を尋ねた際、「階級社会の清では、満州族の貴族を頂点とし、満州族、科挙で登用された漢人を経て、漢人を最下層とする階級が定着している。これでは新しい活力は生まれない」と聞き、帰国後には身分にとらわれない奇兵隊を組織した。
さらに、得た知識や体験などの「利器」を使う必要がある。国際法を勉強した陸奥宗光は、江戸幕府が米国に建設を依頼していた艦船ストーンウォール号について、米国が明治政府を江戸幕府の後継として承認したのだから、同船も明治政府の財産に帰属することになると指摘して交渉を行い、同船を手に入れた。
“天保の老人”との批判に対し、福沢諭吉は、『文明論之概略』で「江戸時代の自分と明治時代の自分を比べ、江戸時代に得た知識と新しく得た西洋の知識を比較すれば、何が必要で何が必要でないかがわかる」と記している。
現在、組織のリーダーである皆様方には、今後のリーダーとなる若者をインドや中国に派遣し、両国の実態について「知る、学ぶ」体験をさせてほしい。そして、彼らが現地で得た見聞に対して、昭和の知恵を用いて、「何が必要で、何が必要でないか」を教え、導いていただきたい。
昼食講演会シリーズは今後も継続的に活動を重ねていく。次回は9月18日開催の予定。