日本経団連の社会保障委員会(森田富治郎委員長)は17日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の田中滋教授から、社会保障制度をめぐる今後の重点課題について説明を聴いた後、意見交換を行った。
田中教授の説明の概要は次のとおり。
近年、医療制度をめぐっては、長寿医療制度の施行、全国健康保険協会の発足、都道府県の地域医療計画の策定、療養病床転換、特定健診・保健指導の実施など、さまざまな問題をはらむものの前進がみられるのは確かである。現在の問題は、保険料や自己負担分を支払えないなど、現行の医療保険制度についてこられない人々が発生していることである。さらに、(1)救急医療の疲弊(2)診療科別偏在による外科医等の不足のおそれ(3)公立病院の赤字――など、医療提供体制上も重大な危機に瀕している。これまで日本は、低い福祉を低い税・社会保障負担で賄ってきたが、そのままでは社会の持続は不可能である。小泉政権は、金融改革などを通じ、日本型新自由主義への転換を図ろうとしたわけだが、それを社会保障にも当てはめる誤りを犯した。患者の自己負担割合上昇による利用抑制や診療報酬切り下げによる医療崩壊の危機を招いてしまった。今後、持続可能な選択肢として、日本が中福祉・中負担型の社会を実現していくには、社会保険料引き上げと合わせ消費税による財源確保が必要である。欧米諸国は二大政党制の下、相対的に小さな政府を望ましいとする保守党と相対的に大きな政府による社会保障を重視する社会民主主義政党との間で、政権選択がなされる。しかし、現在、日本では二つの保守党が並存しているようなものであり、選択が非常に難しい。欧州型の社会保障制度を活用する自立社会をめざすか、アメリカ型の自発的な互助を活用する自立社会をめざすか、政策選択が行われる社会を望む。今後、医療・介護のみならず、保育や教育を含め、しっかりとした共助と公助の組み合わせで支えることが不可欠である。
引き続き行われた意見交換では、「日本の社会保障に関わる課題は明らかなのに、具体的解決に向けた道筋が見えない。今後の展開をどのように考えるか」との質問に対し、「介護は制度改革に関わる理念・設計図が比較的明確になっているが、医療は進むべき方向性が見えにくい。急性期医療の現場の疲弊を考えればすぐにも対処すべき」との回答があった。また、「企業の社会保障負担が重くなると、新興国との国際競争に影響が出るのではないか」との質問に対し、「人件費の数パーセントアップ程度の社会保障負担によって国際競争に負けてしまう製品しかつくれない企業に存在価値はない。ただし今後は社会保障負担を主としつつも消費税で補完し、社会保障制度のほころびを修復する舵の切り替えが必要となる」との見解が示された。
社会保障委員会では今後、中福祉・中負担の社会保障制度の確立に向け、年金、医療・介護など、各制度の給付と負担のあり方やセーティネット強化に向けた施策について、さらに検討を進めることとしている。