日本経団連は5月22日、東京・大手町の経団連会館で東京証券取引所(以下、東証)の静正樹執行役員を招き、金融制度委員会資本市場部会(武井優部会長)を開催、東証が取りまとめた上場制度整備に関する報告書の内容などについて説明を聴いた。静執行役員の説明の概要は以下のとおり。
東証は、上場会社のコーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備を2008年度の最優先課題として位置付け、問題の把握のために投資家向けの意見募集を実施した。東証の諮問機関である上場制度整備懇談会は、海外機関投資家を中心に特に要望が多かった「投資者が安心して投資できる環境の整備」と、「株主と上場会社の間の対話促進のための環境整備」について優先的に検討し、今年4月に報告書を取りまとめた。
この報告書では、第三者割当に関し、(1)大規模第三者割当(希釈化率が300%超)について実質的な審査プロセスを設け、未然防止を図る(2)25%以上の希釈化を伴うものや支配権の移動を伴うような第三者割当について、原則として株主への説得性を増すための手続きを課す(3)割当先を確認するプロセスを設けて反社会的勢力等の関与の未然防止を図る(4)支配株主の移動があった場合は、支配株主との間で不当な取引等が行われていないか事後的な確認を行う――などの提言が行われた。
また、株式併合に関し、(1)合理的な理由なく著しく多くの株主の地位を奪う株式併合については、実質審査のプロセスを設けて未然防止を図る(2)株式買取請求権が確保される他の代替手段がある場合には、これを選択することを上場会社に求める――との提言が行われた。
さらに、株主総会における議決権行使を容易にするための環境整備や、議決権行使結果の開示について、順次制度の整備や強化を進めていくことが望ましいとの提言が行われた。
これらの提言を上場制度に反映するため、東証は5月に「制度要綱」を公表し、パブリックコメントを募集(6月18日締切)している。「制度要綱」には、これらの提言の内容に加え、東証が策定した「上場制度整備プログラム」のうち、未整備の課題も含まれている。
「制度要綱」では、企業行動規範に掲げられている項目を、「遵守すべき事項」と「望まれる事項」に区分した。「遵守すべき事項」に違反した場合はペナルティー的措置として公表措置や上場契約違約金、改善措置として改善報告書や特設注意市場銘柄の適用対象となり得る。また、「遵守すべき事項」に「第三者割当に係る尊重義務」「MBOに係る尊重義務」「上場会社による内部者取引の禁止」「反社会的勢力との関係の禁止」「流通市場の機能又は株主の権利の毀損行為の禁止」を新設し、「望まれる事項」に「上場会社監査事務所又は準登録事務所による監査」を新設した。
また、反社会的勢力との関係が判明した場合の上場廃止基準を新設し、株主と上場会社との対話促進のための環境整備として、上場会社は株主総会の招集通知等を電磁的方法により東証に提出し、これらを公衆の縦覧に供することに同意するものとした。
議決権行使結果の開示を除くこれらの制度については、8月を目途に実施する予定である。
このように、上場制度を整備しているが、単純に決め事をつくれば解決する問題ばかりではなく、上場会社にとっても納得のいくルールにしなければ制度の実効性も向上しない。投資家の声も踏まえつつ、制度趣旨の理解やコンセンサスの形成に向け、上場会社との対話も継続していきたい。