日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(広崎膨太郎部会長)を開催し、経済産業省通商機構部の山本信平国際知財制度調整官から「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」の交渉の進捗状況につき説明を聴き、懇談を行った。
山本調整官はまず、模倣品・海賊版による被害の実態について紹介があり、イノベーション促進のためにもACTAが必要であるとの説明があった。
次に、ACTAの交渉戦略として、第1段階では知的財産保護に高い志を有する国で結束して、高いレベルでの国際的な規律を形成し、第2段階ではACTA交渉参加国がACTAの内容をFTA知財章のモデルとして積極活用し、参加国以外へも浸透するよう働きかけるとともに、段階的に参加国を拡大させ、究極的にはACTAを世界標準にすることをめざしているとの紹介があった。
また、ACTAでは、模倣品・海賊版の流通経路を断ち、模倣品の製造・流通プロセスの複雑化にも対応でき、適正な損害賠償額の算定も可能となるような措置を盛り込むことを提案していると説明。そのための水際措置や民事執行、刑事執行など実効性を担保するためのさまざまな規定について検討されていることや、デジタル環境における知的財産権の執行に関する規定を入れる方向性はあるものの、具体的条文案の策定には至っておらず、依然として情報収集段階であることなどの説明があった。
さらに、今後の展望として、(1)「規律の高さ」「参加国の範囲」「妥結までのスピード」の3つのバランスを考えながら交渉を進める(2)新政権発足後の米国の交渉体制が整い次第、交渉を再開し、可能な限り早期の合意をめざす――との表明があった。
説明の後に行われた懇談では、広崎部会長から実効ある模倣品・海賊版対策としてのACTAへの期待が示されるとともに、被害状況について国際比較が可能な状態で推移が調査できるようにしてほしいとの要望がなされた。
また、委員からもACTAに関する認識が深まったという感想や、著作権の権利者に関する基準の統一への期待、あるいは取り締まり対象としている「模倣ラベル」の定義に関する質問などが活発に出され、それぞれについて山本調整官から説明を受けた。
日本経団連は、内閣官房知的財産戦略本部が毎年発表している「知的財産推進計画」に対して、提言(「知的財産推進計画の策定に向けて」)を取りまとめているが、その中で、ACTAの早期実現に向けた取り組みを推進しており、今後もACTAの議論の推移を注意深く見守っていく方針である。