日本経団連タイムス No.2952 (2009年5月28日)

若年層の人材確保・定着へ

−課題と対策で意見を交換/中小企業委員会


日本経団連は22日、東京・大手町の経団連会館で中小企業委員会(澤部肇委員長)を開催した。リクルートHCソリューションユニットゼネラルマネジャー兼コンサルティングディレクターの太田芳徳氏から「中小企業における若年層の人材確保・定着に向けた課題と対策」について講演を聴き、意見交換を行った。
太田氏の講演概要は以下のとおり。

■ 大卒求人状況から見るマーケットの状態

2010年3月卒の大卒求人倍率は1.62倍となっている。非常に厳しいように映るが、バブル崩壊時や就職氷河期と呼ばれる時代と比較すると、まだよい状態である。企業規模別にみると、1000人以上の企業における求人倍率は0.55倍(前年比0.22ポイント低下)と小幅な低下にとどまる一方で、1000人未満の企業においては3.63倍(同0.63ポイント低下)と低下幅が大きくなっている。中小企業にとって人材確保のチャンスという声もあるが、大手企業の求人倍率がそれほど落ちていないことを考えると、引き続き採用が難しい企業もあろう。

■ 人材の活躍と定着の構造

重要なことは、採用した人材がきちんと活躍してくれるかどうかである。採用活動や入社後の育成・マネジメントが、リテンション(定着)にどの程度影響するのか、リクルートの独自調査の結果を紹介する。

リテンションに最も影響するのは、「個人における暗黙知の蓄積」であった。つまり、社内に構築してきた人脈、仕事のやり方や手続きの習得、今後の収入への期待感といったものである。ここが高まると転職意向を抱く人数は減っていく。

「個人における暗黙知の蓄積」に大きな影響を与えるのが「職場の信頼関係」である。これは、目的・目標の共有や人事評価・結果の適切なフィードバックによって醸成される。

■ 人材が活き活きと働く、定着する組織づくり

ポイントは3点ある。1点目は、採用された者が会社のイメージ等について入社前後でギャップを抱くことがないよう、採用活動時に会社情報を十分納得感が得られるまで提供することである。入社前後のギャップは、定着や戦力化の阻害要因となるため、表現を工夫しながら、厳しい現実をあえて正直に伝えることも重要となる。

2点目として、会社への信頼を醸成するより、組織(職場)の中の目的・目標を共有させることが、入社後の定着を図る上で有効である点が挙げられる。つまり、一体感の向かう先は会社という器ではないのである。これは、ビジネスが複雑になり、会社として一つの目標に向かっていくことが難しくなっており、組織が自立分散型に変化したためである。

3点目は、暗黙知の共有方法についてである。暗黙知は時間とともに共有されるものであるが、例えば意図的に共有する方法などを検討しなければならない。

さらに今後の展望として、採用と育成を強くリンケージさせていくことが重要になると考える。求める人材像を明らかにした上で、採用や育成に何らかの指標を置き、PDCAを回していくことは検討に値する。

【労働政策本部】
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