日本経団連タイムス No.2950 (2009年5月14日)

小津法務事務次官が理事会で講演

−「再犯防止と刑務所出所者等に対する就労支援」をテーマに


日本経団連が4月14日に東京・大手町の経団連会館で開催した理事会で、法務省の小津博司事務次官が「再犯防止と刑務所出所者等に対する就労支援」をテーマに講演を行った。概要は次のとおり。


講演する小津法務事務次官

わが国では毎年200万件の刑法犯が発生しており、うち75%程度が窃盗犯である。件数の推移をみると昭和40-50年代にかけて安定していたが、その後増加に転じ、特に平成8年ころから急増、最近は少し落ち着いている。刑務所人口もこうした変化を反映しており、戦後の混乱期を経て急速に減少し5万人前後で推移していたが、10年ほど前から急増、10万人を突破する勢いであった。このように犯罪発生件数が増加したことに加え、凶悪犯罪の多発、犯人の検挙率の低下などから、治安に対する国民の不安も増大していった。

法秩序の維持と治安の確保は国民生活にとっても、安定した経済活動にとっても不可欠な前提条件である。わが国でも、近年の治安の悪化に対して、犯罪防止の取り組みを強化すべきとの国民の声が強くなってきた。それを受けて政府では、平成15年に犯罪対策閣僚会議が行動計画を策定し、同計画に基づく取り組みが行われてきた。犯罪件数の増加を防ぐことができたのは、景気動向などの要因もあるが、地域と一体となった警察の防犯活動の強化など、政府の取り組みが効を奏しつつあるものといえる。

こうした状況を踏まえ犯罪対策閣僚会議は昨年12月、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」を策定した。その中では刑務所出所者等の再犯防止が、犯罪者を生まない社会の構築の重要な柱と位置付けられている。全体の3割の再犯者によって6割の犯罪が行われており、また仕事がある者の再犯率は、仕事がない者の再犯率の5分の1となっている。従って刑務所出所者が社会で仕事を得られるかどうかが再犯防止の観点からは決定的に重要であり、犯罪全体を減らす上で非常に大きな意義を有する。罪を犯した人が罪を償い、もう一度社会生活が送れるようにすることも刑事司法の大切な役割である。再犯を防ぐためには、外に出さない方がよいという考えもあるが、それはその人の社会復帰をますます困難にし、さらに犯罪に追いやってしまう結果になる。そうした人々が大量に存在するということが治安にとっては潜在的に大きな脅威となる。また、大量の受刑者を抱え込むことから膨大な予算が必要になる。逆にこれらの人々の多くが有用な仕事をするようになれば、社会にとって大きなメリットとなる。

わが国の刑事司法は一貫してすべての犯罪者の社会復帰をめざし、その更生に尽力してきた。刑務作業を通して就労の意欲や習慣をつけさせ、職業訓練や資格取得などの取り組みを行っている。刑務所の外では全国5万人の保護司が中心となって就労支援を行い、また出所者の雇用に理解のある事業主に協力雇用主になって協力してもらっている。こうした長年にわたる努力が、世界に類を見ない犯罪の少ない安定した社会の維持に大きく貢献してきた。

しかし社会構造の変化や事業形態の変化などにより、従来の方法だけでは受刑者の社会復帰の取り組みとして限界がある。そこで一度過ちを犯した人々が安定した仕事を得て、社会に貢献するという喜びを感じながら生活していける体制を整えることが必要であるとの考えの下、平成18年度から法務省と厚生労働省が連携して、刑務所出所者等に対する就労支援を積極的かつきめ細かく行う総合的就労支援対策を実施している。受刑者、出所者あるいは雇用する企業に対する施策などのほか、協力雇用主の積極的な拡大にも取り組んでいる。それでもなお保護観察終了時での無職者は年間8500人を超え、全体の19%近くになっている。また協力雇用主も増加しているが、業種や職種には偏りがみられる。そこで経済産業省、農林水産省などとも連携して、刑務所出所者等を全国各地の幅広い分野で雇用してもらうために、地方の経済団体や企業への要請の取り組みを開始している。

こうした中、今年1月、NPO法人の全国就労支援事業者機構が設立された。同機構は犯罪者の就労機会の確保について経済界全体の協力と支援によって、事業者の立場で推進していこうという趣旨で設立されたもので、設立にあたっては日本経団連の支援を受けている。具体的には、全国機構が各都道府県に設立される地方組織を活用し、各地で刑務所出所者等への就労の拡大、雇用企業に対する賃金の助成等の事業を実施するものである。こうした就労支援により再犯防止が図られれば、その恩恵は国民全体に及ぶものとなる。経済界全体のこうした取り組みは、わが国の刑事司法の歴史上画期的な出来事であり、極めて重要な意義がある。法務省では今後とも同機構、地方組織の助力を得て、従来以上に就労支援をはじめとする再犯防止対策を進めていきたい。

【総務本部】
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