日本経団連の産業問題委員会(原良也共同委員長、西田厚聰共同委員長)は3月26日、同委員会が取り組む産業人材の育成と確保についての検討の一環として、立命館アジア太平洋大学(APU)のモンテ・カセム学長から、わが国における人材の育成と確保に向けた課題について説明を聴くとともに意見交換を行った。カセム学長の講演概要は以下のとおり。
日本が世界の教育・研究の拠点となるには、日本の長所を活かしながら、大学改革を進めていくことが必要となる。大学改革の支えになる日本の魅力としては、(1)長い歴史と伝統・文化(2)科学技術大国としての技術力(3)世界平和と発展への貢献――が挙げられる。特に、科学技術力については、優れた研究者や発明が企業の研究所から生まれることが日本の特徴であり、企業が重要な役割を果たしている。世界平和と発展への貢献については、実は日本は世界のトップランナーと認められてよいにもかかわらず、その貢献の知名度が低い。加えて、治安の良さも日本の大きな強みである。こうして考えると、日本の大学で学ぶことの魅力は大きいと思う。ただし、世界的に見て、日本は信頼できるパートナーとして認められているが、「愛される」国にはなっていないのではないか。例えば、日本を良きビジネス・パートナーとして考える外国人は多いが、余暇などの楽しい時間を過ごすパートナーとして考える人は少ない。日本の大学としても、日本が信頼される国であるのと同時に、愛される国になるために、どのような人材育成を行っていくべきなのかを考える時に来ている。
APUは、世界の発展を担う新しい時代のリーダーをアジア太平洋地域で育成するために設立された大学である。そのため、アジア太平洋地域以外の出身者も招き、真の国際人を育成する教育を行っている。アジア太平洋時代においては、世界各国のリーダーが互いに連携して、課題を解決していくことが必要だからである。こうした野心的な目標を達成するためには、これまで日本には存在しなかったような全く新しい大学を創設しなければならなかった。そこで、APUは外国籍学生を50%、外国籍教員を50%、50カ国以上から学生を受け入れるという「3つの50」を目標に掲げた。この目標はほぼ達成しており、現在では88カ国・地域から学生を受け入れている。現在の大学政策は、ややもすると金太郎飴のように同じような大学をつくってしまう傾向にあるが、今後は先進的な教育や研究を行い、実績を上げている大学を重点的に支援し、日本の大学の魅力を向上させるような施策を取っていく必要がある。
APUでは世界各国から有為な学生を招くため、24人ものスタッフが留学生担当となり、大学独自のグローバル・ネットワークを使って活動している。また、日本人学生と外国人学生が互いに交流し、刺激を与え合う環境をつくるため、混住型の寮の設置、言語文化ウィークの実施などさまざまな試みを行っている。今後も国際社会における人材育成を念頭に、先進的な教育を行っていきたい。