日本経団連の21世紀政策研究所(御手洗冨士夫会長、宮原賢次理事長)は2月16日、第61回シンポジウム「電子行政の未来‐ITによる行政サービスの刷新」を東京・大手町の経団連会館で開催した。同研究所は、今回のシンポジウムの議論も含めて、近々、報告書「国民本位の電子行政サービスの確立‐ITによる行政の全体最適化に向けて」を取りまとめ21世紀政策研究所のホームページに公開し、わが国の次世代電子行政の構築に向けて、広く議論を喚起する予定である。
シンポジウムでは、秋草直之・日本経団連電子行政推進委員会共同委員長の開会あいさつの後、同研究所の須藤修研究主幹(東京大学大学院情報学環教授)が研究の概要を報告した。パネルディスカッションでは、須藤研究主幹をモデレーターに、南俊行・内閣官房内閣参事官、喜連川優・東京大学生産技術研究所教授をはじめ政府、自治体、大学、企業の専門家を招いて、政策面と技術面に分けて今後の電子行政をめぐって討論した。当日は、日本経団連の会員企業・団体を中心に約190名が参加し、熱心に議論に耳を傾けた。
開会あいさつにおいて、秋草共同委員長は、「2001年にIT戦略本部が設置されてから8年経つが、住民サービス面から見ると日本の電子行政はあまり変わらず、世界から明らかに後れを取ってしまった。早急に電子行政の推進体制・法制の整備を進めるとともに、縦割り行政の中で7つ8つ持たされている国民コードの統合を進めるべきだ」と強調した。
続いて、須藤研究主幹より、国連の電子政府ランキングで日本は11位であり、このままではさらに順位が落ちてしまうとの強い危機感を持って、報告書の提言骨子=(1)バックオフィースの業務プロセス改革も踏まえた投資順位(2)組織的推進とユーザ主導(3)共通コードと個人情報保護(4)データベース疎結合(5)SOAとクラウド(6)申請主義からプッシュ型サービスへ(7)官民連携によるサービス創造――が紹介された。須藤研究主幹は、「現在、政府で進めているワンストップサービス化は、経済が大きく落ち込む中で、日本のイノベーションの次のステップにつながる重要な取り組みである」と締めくくった。
パネルディスカッション1は、「ワンストップ電子行政サービスの実現に向けて」をテーマに、5人のパネリストが議論した。
南内閣参事官は、政府の取り組みを紹介しつつ、「世界一効率的な電子政府を実現させるためのポイントは、国民運動の盛り上がりを背景に政府全体がどこまで本気度を示せるかであり、皆さんと協力しながら進めていきたい」と述べた。
須藤俊明・藤沢市企画部担当部長兼IT推進課長は、藤沢市での電子自治体の取り組みを紹介しつつ、「地方分権の名の下にすべてを自治体に任せるのではなく、各自治体の実態を把握してできることから取り組めるようにすべきだ」と主張。
遠藤紘一・日本経団連電子行政推進委員会電子行政推進部会長は、昨年11月の日本経団連の提言「実効的な電子行政の実現に向けた推進体制と法制度のあり方について」(ホームページURL= http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/082/index.html )を説明した後、「国民、企業が電子政府をもっと強く要望し、『見えない階段を昇る』ように工程表を細かくチェックして、少しずつでも毎日進むようにすべきだ」と強調した。
これに関連して、同研究所研究会メンバーの榊俊吾・東京工科大学メディア学部准教授、後藤鈴子・茨城大学人文学部准教授がコメントした。
パネルディスカッション2は、「電子政府とITイノベーション」をテーマに、4人のパネリストが議論した。
喜連川東京大学教授は、文部科学省科研費の「情報爆発」研究と経済産業省の「情報大航海」研究の概要を説明しつつ、非Web情報も含めた情報爆発時代の価値創出の例として、メタボ検診やサイバータイムマシンなどをわかりやすく紹介した。
重木昭信・NTTデータ副社長は、ICT技術の歴史とわが国の電子政府の発展段階(既存システムの緩やかなデータ連携→同一プラットフォーム上でのクラウド化→全面的なデータ保有の最適化)を展望した上で、「まずは、個人、法人を統一的に識別するコードの共通化が急務である」と主張した。
これに関連して、同研究所研究会メンバーの橋田浩一・産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長、佐藤洋一・東京大学生産技術研究所准教授がコメントした。