日本経団連の財政制度委員会企画部会(筒井義信部会長)は4日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、大阪大学大学院国際公共政策研究科の赤井伸郎准教授から、「地方財政をめぐる課題」をテーマに説明を聴いた。赤井准教授の説明要旨は次のとおり。
地方分権は本来、地方が責任を持つべき事業に対して自立した経営を行えるようにすべきものであって、国がなすべき事業もすべて地方に移譲するというものではない。しかし、三位一体改革では、国と地方の事業の役割分担の議論がなされないまま、ナショナルミニマムである義務教育や社会保障など、地方にとって政策的な自由度の低い事業の補助金が削減されたことや、国から地方への税源移譲により、税源移譲によって財源を得た都市部の自治体とそれ以外の自治体の間で税収格差が顕著になったことなどから、かえって交付税に依存する体質が広まった。
格差問題は2007年の参院選に大きく影響した。このため、08年度の税制改正では地方間の税収格差が焦点になった。これに対し、地方側が求める地方消費税拡充は先送りされ、暫定措置として都市部に税収が集中する法人事業税の半額程度を「地方法人特別譲与税」に組み替え、地方に配分することで、格差を是正しようとした。ただ、交付団体は譲与税で税収が補われた分、交付税は減額されるため、減額分相当の「地方再生対策費」を新たに設けた。
元来、地方間の税収格差は交付税により既に是正されている。何が「格差」なのか定義があいまいなままでは、是正措置の効果を評価することは難しい。データ上は都市部の方が地方よりも1人当たり地方税収が多いが、交付税や補助金も含めた歳入全体でみれば、1人当たり歳入は地方の方が都市部よりも逆に高くなる。何をもって格差とするか、指標の検討が必要である。
道州制のあり方に関して、国民が望む生活・公共サービスのイメージを実証的に把握できていないため、望ましい制度のコンセンサスがない。実証的な分析は難しいが、国民に許容される行政サービスの最低レベルと、地域間格差と競争インセンティブの兼ね合いに関する国民の意識を数値で把握する努力が重要だ。
行財政の制度設計にあたっては、国が財源を持たずに規制だけするのではなく、財源と権限は一致させる本来の分権をめざすべきである。道州制導入の効果に関する先行研究は「地方に配分権限を移譲すれば効率的な配分が可能になる」という前提で行われているが、その前提が正しいことを示す説得力あるデータは出されていない。また、事務を移譲するとしても、サービスを一定の水準に保ったままコストを効率化できるかどうかは事務の種類ごとに異なってくる。今後は、事務ごとに、道州制の費用効果を実証的に把握していくことが求められる。