日本経団連タイムス No.2938 (2009年2月12日)

中東・アフリカ地域駐箚大使と懇談会

−わが国の対中東・アフリカ政策や地域情勢などを聴く


日本経団連は1月16日、都内で中東・アフリカ地域駐箚大使との懇談会を開催した。

■ 鈴木敏郎・外務省中東アフリカ局長

懇談会では、渡文明副会長のあいさつに続き、まず外務省の鈴木敏郎・中東アフリカ局長が、わが国の対中東・アフリカ政策について説明した。冒頭、鈴木局長は、「中東地域はエネルギーをはじめビジネスチャンスが豊富な一方で、人口増加や若年層の失業などの経済・社会問題を抱える。イランやアフガニスタンの動向も注視しなければならない」と指摘。その上で「そうした中、わが国は今年から2年間、国連安保理の非常任理事国として中東の平和と安定の確立に積極的に関与し、存在感を示したい。2国間関係では、日本が強みを持つ教育や環境などの分野での協力を通じて、エネルギーにとどまらない厚みのある重層的関係を構築したい。それによって相互理解が進み、Win‐Winの経済関係も強化される」と述べた。対アフリカ政策では、昨年の第4回アフリカ開発会議(TICAD4)で表明したODA倍増などの約束を着実に実施することや、貿易・投資の促進に向けた官民連携強化の重要性を強調した。また、世界経済危機について、「非産油国への影響は大きいが、油価の高い時期の蓄えがある産油国では赤字予算を組んでもインフラ整備などの重要プロジェクトを予定どおり進めようとしており、当面はそれほど悲観的になる必要はない」との見方を示した。ガザの問題については、現地に特使を派遣し、イスラエル、パレスチナ双方に働きかけるなど、事態の沈静化に向けたわが国の取り組みを紹介し、「ハマスとファタハの関係改善、イスラエルの総選挙の結果、米国のオバマ政権の姿勢などの要素を考える必要がある」と述べた。

■ 中村滋・駐サウジアラビア大使

続いて、世界経済危機のGCC諸国への影響について、中村滋・駐サウジアラビア大使が、各国政府が金利の引き下げや預金の保護、金融市場への資金供給など、信用収縮に対するさまざまな政策を打ち出し、銀行間取引も含め、金融不安は生じていないこと、今年の国家予算は原油価格を1バレル45〜50ドルの保守的な水準で策定し、これまでの高油価で積み上がった余剰金を用いるため、国内の開発計画に変更はないことなどを挙げ、危機の影響は免れないが、GCC諸国の経済は強靱であり、今こそビジネスチャンスであるとの認識を示した。また、GCCのアラブ版EUともいえる経済共同市場に向けた動きを紹介するとともに、GCCと日本との自由貿易協定(FTA)や2国間の租税協定、投資協定交渉の現状を報告し、早期の合意に意欲を示した。

■ 小川正二・駐イラク大使

最近のイラク情勢については、小川正二・駐イラク大使が、「スンニ派反政府勢力の闘争方針転換、政府軍の攻撃によるサドル派民兵組織の弱体化、米軍の増派などにより、昨年後半から治安が著しく改善したことから、イラク側が自信を深め、復興支援に向けた日本の協力に大きな期待を抱いている」と報告した。一方、「日本側は、まだまだ安全面の懸念があり、イラク側の要請にすぐに応えることはできず、双方の認識の差を埋めていく必要がある」との認識を示すとともに、「日本企業の関心の高い石油開発やインフラ建設など、復興需要に対して今後、具体的にどのような支援を行うか、官民一体となって考えていきたい」と述べた。

■ 城田安紀夫・駐イラン大使

イラン情勢については、城田安紀夫・駐イラン大使が、「豊富な石油と天然ガスを有し、市場や生産拠点として可能性を秘めたイランの経済が活性化しない理由は、核開発問題解決の出口が見えないことにある」と述べた。加えて、「イランの天然ガスや地域の安全保障をめぐる大国の思惑もあって、中東におけるイランの中・長期的役割について国際社会や周辺諸国で共通認識が得られていない」と指摘した。最後に「わが国はイランと良好な関係を保っているが、こうした複雑な背景を念頭に、同国との経済関係強化を慎重に進めるべきである」との認識を示した。

■ 植澤利次・駐ナイジェリア大使

西アフリカ情勢については、植澤利次・駐ナイジェリア大使が、「小国が多いため政治的な不安定要因はあるものの、地理的要衝にあって、特にエネルギー分野で大きな潜在力を有する。西アフリカ経済共同体(ECOWAS)は通貨と市場の統合をめざしている」と報告した。また、「石油など外需に依存するナイジェリア経済は、世界経済危機の影響を受ける」と指摘する一方、「日本企業にとっては円高メリットもあり、アフリカは投資先として有望である」との見解を示した。

■ 松山良一・駐ボツワナ大使

サブサハラ地域情勢については、松山良一・駐ボツワナ大使が資源開発や広域インフラ整備、潜在的な市場としての可能性について報告し、「外国企業が資源探査を経ていざ開発に着手しようとした矢先に金融危機が発生し、資金繰り不安もささやかれる今こそ、日本の官民が協力して資源開発を実現する大きなチャンスである」と強調した。また、「官民が連携してODAを活用した社会インフラ整備を行うべきであり、円借款制度をより使い勝手の良いものに改善したい」と述べた。これに関連して、南部アフリカ開発共同体(SADC)による内陸国と港を結ぶ道路や鉄道などの回廊建設計画や、空港、通信、電力、水などのプロジェクトを紹介するとともに、通関手続きの簡素化などソフト面での支援の可能性について言及し、日本企業のアフリカ進出に期待を示した。

【国際第二本部中南米・中東・アフリカ担当】
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