日本経団連の社会保障委員会(森田富治郎委員長)は12月9日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、社会保障国民会議の座長を務めた東京大学大学院経済学研究科の吉川洋教授から、11月4日に公表された社会保障国民会議の最終報告を中心に、社会保障制度改革のあり方などについて、説明を聴くとともに懇談した。
吉川教授はまず、「少子高齢化に対応して給付・サービスをいかに整えるか、少子高齢化の中で、社会保障制度をいかに財政的に持続可能なものとするか。この2点が、少子高齢化が進む中で直面する困難である。すべての先進国は同様の困難に直面しており、悩みながら改革を進めている」と述べた。また、「わが国の社会保障の給付総額は年間約90兆円で、その内訳は年金が約半分、医療が約30兆円を占める。一方、負担の内訳は、約3分の2が保険料で、残り約30兆円のうち約22兆円が国税である。従って、国の予算約80兆円のうち、国債の利払い、地方交付税交付金を除いた『一般歳出』の中で、社会保障費が約22兆円、率にして50%近くを占めている。国の予算のうち、純増が続くのは社会保障しかなく、日本の財政赤字の問題は、社会保障のあり方と一体だといえる」と述べ、国の財政上の課題と社会保障の持続可能性を合わせて考えることが大切であることを指摘した。
次に、社会保障財政を持続可能なものするためのこれまでの改革として、2004年の年金制度改革を例に挙げて、「この改正により、保険料率に上限が設けられる一方、高齢者の給付水準を社会の高齢化の進行に応じて自動的に調整する『マクロ経済スライド』が導入された。これにより、財政の持続可能性が大きく高まった」と説明した。この点、関連する未納の問題については、「低年金・無年金者を出さないようにすることは、公的年金における一丁目一番地の課題である。ただし、年金財政そのものに決定的な影響を与えるわけではなく、財政上の問題とは異なるものと理解する必要がある」との認識を示した。
社会保障国民会議の報告に関しては、「年金については、基礎年金の財政方式をめぐって大きな議論があり、税方式、社会保険方式のシミュレーション結果を示した。制度改革には時間がかかり、継続的に行っていくこととされた」と述べた。また個人的な見解とした上で、「移行費用の問題、企業負担分の取り扱いなど、税方式化にあたって議論すべき論点がある。税方式化については、議論を行いつつ、2010年代を見据えて、長期戦で取り組むべき課題ではないか」と説明した。
また、財源の確保に関しては、「消費税を増税して、社会保障のうち現在消費税で賄えていない部分に充てるべき、との指摘がある。社会保障に充てるべく消費税を上げることについて、ほぼコンセンサスがあると考えるが、今までの赤字を埋めるだけでは国民的な理解を得られないと思う」と述べ、消費税増税分は社会保障の機能強化に使うべきとの認識を示した。