日本経団連、関西経営者協会、関西地方各地経営者協会主催、経営法曹会議協賛による「第102回日本経団連労働法フォーラム大阪大会」が10月30日、大阪市内のホテルで開催され、全国から経営法曹会議所属弁護士108名、企業の人事担当者456名の計564名が参加した。
第102回となる今回は、近年労働時間をめぐるトラブルが増加していること、また時間外労働に対する割増賃金が適正に支払われるよう監督指導が強化されていることなどを踏まえて、「労働時間の適正な管理と今後のあり方」が総合テーマ。
冒頭の辻井昭雄・日本経団連地方団体長会副議長・関西経協会長のあいさつに続き、勝井良光弁護士が「労働時間をめぐる法的諸問題」をテーマに報告した。
続いて、同テーマに関する質疑・討議が天野実弁護士の司会により行われ、実務上の留意点について検討を行った。
最後のパネルディスカッションでは、パネリストとして勝井弁護士のほか、大内伸哉・神戸大学大学院教授、庄司哲也・西日本電信電話取締役が参加、「企業に求められる労働時間管理と今後のあり方」をテーマに、コーディネーターの中川克己弁護士の進行により、活発な議論が行われた。
フォーラムの報告、質疑・討議、パネルディスカッションの概要は以下のとおり。
冒頭、労働時間の概念について説明。明示的指示がある場合だけでなく、黙示の指示があると認められる場合にも労働時間性は肯定できるとした。
次に、使用者の労働時間を適切に管理する責務については、労働基準法や今年3月1日に施行された労働契約法から導かれるとし、裁判例を参考に時間外労働の立証責任、付加金への影響などを検討、使用者の労働時間管理の必要性を説いた。
また、高度専門職労働者などの割増賃金の本給組み入れおよび定額払いについて説明。時間外割増賃金の定額払いは、当該手当が時間外割増賃金の趣旨で支給されたものであることの立証が困難な場合が多く、さらなる割増賃金および付加金の支払いによるトリプルパンチのリスクがあるとした。
一方、少数ながら本給組み入れが認められた裁判例として、モルガン・スタンレー・ジャパン事件(東京地裁平成17・10・19判決)などを挙げた。
続いて、みなし時間制度の概要を説明。事業場外労働のみなし制は、携帯電話の発達などにより「労働時間の算定が困難であること」という要件の達成が困難になってきていると指摘した。また、専門業務型および企画業務型裁量労働制について、対象業務、健康福祉確保措置などの観点から裁判例を交えて解説した。
最後に管理監督者について、まず9月9日に出された通達「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」を踏まえて判断基準を説明。通達では、重要要素と補強要素に分けた否定要素を示しており、肯定要素の記載がないことを強調した。その後いくつかの裁判例を挙げ、管理監督者性については、賃金が判決に大きな影響を与えているとの見解を示した。
【問】当社では、残業の際は残業申請書を作成して上司の承認を得ることとなっているが、その手続きをせずに残業をしている職員からの残業代請求には応じなければならないか。
【答】残業管理方法に違法性はないが、管理職が職員の残業を把握し中止させなかった場合に、黙示の残業命令と解されることが多く、支払いには応じなければならない。裁判例として、就業規則所定の事前承認手続きがとられていなかったことをもって労働時間であることを否定すべきでないとし、時間外労働時間を認定した、かんでんエンジニアリング事件(大阪地裁平成16・10・22判決)などがある。
はじめに日本マクドナルド事件判決の印象について議論を行った。店長の処遇を賃金の単純比較で済ませている点については問題であるなどの意見があったが、労働時間の規制のあり方を見直すよい機会であるとの意見で一致した。
労働時間の「適正管理」については、労使慣行の下で企業は労働の需給調整は難しく、労務管理のコンプライアンスは徹底されていない状況にあること、労働時間の自己申告に頼らない工夫として業務指示の徹底、管理監督者の現認の必要性が確認され、そのためには日常的なコミュニケーションが重要であるとの指摘があった。
次に、裁量労働制の活用について議論が行われた。活用している企業が少ないことから、一定の基準を決めてその中で労使が業務を決められるようにするなど、業務範囲の緩和によって制度を利用しやすくすべきであるなどの意見が挙がった。
続いて、割増賃金率の引き上げなどの法改正の動きについて、割増賃金は労働者の負担に対する賃金という考えから、法律で定めるのではなく労使の裁量に委ねるべきであるとの意見や、割増賃金率の引き上げが本当に長時間労働の抑制につながるのかとの懸念が示された。