日本経団連タイムス No.2928 (2008年11月13日)

北川・早稲田大学教授(前三重県知事)と道州制導入に向けた議論で意見交換

−道州制推進委員会


日本経団連の道州制推進委員会(中村邦夫委員長、池田弘一共同委員長)は10月24日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、早稲田大学の北川正恭教授(前三重県知事)から「道州制の導入に向けた課題」についての説明を聴き、意見交換を行った。北川教授の説明と意見交換の概要は以下のとおり。

<北川教授説明>

■ 成熟社会と地方分権

1871年に明治政府が廃藩置県を行った時点で、東京府の人口は96万人(全国15位)だったが、都市部への人口集中が進んだため、いまでは総人口の26%に当たる3300万人が一都三県に集中している。その一方で、全国には7800カ所以上の限界集落がある。今後、都市部への人口集中がさらに進むと、国として適正なガバナンスが確保できなくなるおそれもある。
かつて日本では、国民全員が「もっと豊かになりたい」と考えていたので、中央集権体制がうまく機能していた。しかし、いまは成熟社会となり、多様性が求められているので、分権を進めることが重要な課題となる。
北欧では、高い税負担に対しても住民は納得している。その理由は、政府が住民にしっかりと説明を行っていること、住民が受益と負担の関係を把握できる規模にまで地方分権が進んでいることにあるようだ。その意味で、日本も見習うべき点は多い。

■ 人々の意識と道州制

私は95年に三重県知事に就任したが、当時の県の業務の80%は機関委任事務(地方公共団体が国の事務の執行を行うもの)で、国の下請け機関としてしか機能していなかった。90年代後半の第1次地方分権改革によって機関委任事務が廃止され、徐々にではあるが、地方が自主的に動けるようになっている。しかし、地方にとっては、国に依存することが最も効率的であるという状態に変わりはない。こうした人々の意識を変えるためにも、道州制を導入することは有効な手段となり得る。

■ 地方の取り組み

「せんたく」(地域・生活者起点で日本を洗濯・選択する国民連合)に参加している地方の首長や地方議会議員は、自立と自己決定権を求めており、地域の経営者としての資質を備えはじめている。「せんたく」が公表した「せんたく八策」では、首長と地方議会は「利益誘導的な口利き・斡旋を禁止し、外部からの働きかけはすべて文書化を行い、不明朗な労使慣行を含めた情報の全面公開を行うこと」を自らに課している。

<意見交換>

出席者からの「北欧の事例が参考になりそうだ」との感想に対し、北川教授は、「日本の制度は高度成長を前提としており、配分するための仕組みとなっている。しかし、今後は負担する仕組みを考えなければならない。そのために地方分権を進めるとともに、情報公開を行い、住民に対する説明責任を果たすことが必要となる」と答えた。

【産業第一本部国土担当】
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