日本経団連(御手洗冨士夫会長)は23日、大阪市の大阪国際会議場で「関西企業倫理セミナー」を開催した。日本経団連では毎年10月を「企業倫理月間」と定め、会員各社が企業倫理の確立に向けて具体的に取り組むよう呼びかけており、その一環として、15日の「企業倫理トップセミナー」に続いて開催されたもの。関西地区の会員企業トップや役員ら300名を超える参加者を得て、企業倫理の徹底、CSR推進に向けた取り組みの重要性について改めて確認した。
冒頭あいさつに立った企業行動委員会企画部会長・オムロン特別顧問の立石忠雄氏は、「関西においても企業倫理への関心がこれほど高いことを主催者として嬉しく思う」とした上で、「御手洗会長からお願いしているように、事業活動全般すなわち、取引・契約内容や品質管理、消費者・顧客対応、従業員や周辺地域に対する保安・安全体制等の総点検に、いま一度取り組んでいただきたい。そしてその成果を踏まえて、企業倫理の徹底に向けた体制充実に努めるとともに、これを実効あるものにするため、従業員の意識改革を図っていただきたい。本日は、企業倫理の確立に向けた実効的な取り組みについて、皆さま方と一緒に考える機会にしたい」と述べた。
続いて桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センター長の郷原信郎氏が「法令遵守徹底が企業倫理の確立に繋がるのか」と題し講演を行った。
この中で、郷原センター長は、「“コンプライアンス”イコール“法令遵守”という考えは誤りである。『遵守』という姿勢、すなわち、何も考えないで決められたことを単に守れば良い、という考え方が多くの弊害をもたらしている」とした上で、「コンプライアンスとは、組織に向けられた社会的要請に鋭敏に反応し目的を実現していくことであり、法令遵守を意識するあまり、本来考えなければならない問題の根本から注意が離れ、その場しのぎの小手先の対応を重ねているために不祥事が頻発している」と指摘した。
さらに、「コンプライアンスは、『社会的要請に対する鋭敏さ』と『目的実現に向けての協働関係』を組み合わせる取り組みである。すなわち、組織の構成員一人ひとりが社会の要請に鋭敏であること、加えて、個々の鋭敏さを組織全体の鋭敏さにまとめ上げるコラボレーションの仕組みをつくることである」と述べた。
その上で、「最終的には、異なる組織間での協働関係を構築し、社会の変化・要請に応えていくことが目標である。組織として社会的要請に適応していくためには、(1)複数存在する社会の要請を把握し、それらへの対応方針を明確化すること(2)その対応方針をバランスよく実現できる組織体制の構築(3)社会の要請に対する基本方針を決定するトップの鋭敏さと、現場の指揮官・従業員の鋭敏さを同時に高めること、そしてそれらを内部統制システムや内部通報システムというツールを用いてハーモナイズさせ、組織全体の鋭敏さを高めること(予防的コンプライアンス)(4)問題が発生した場合、関連する事実や構造を、背景まで含めて全面的に明らかにし、真の原因究明、再発予防措置につなげること(治療的コンプライアンス)(5)方針実現を阻害する社会的環境が存在する場合に、その是正に向け、組織と社会のコラボレーションを図ること(環境整備コンプライアンス)――という5つの要素からなる“フルセット・コンプライアンス”に取り組むことが重要である」との考えを示した。
また郷原氏は、「特に、カビ型の違法行為、すなわち組織の利益が目的で、継続的・恒常的な違法行為が多い日本の場合、原因となっている社会的、構造的要因(汚れや湿気に当たるもの)を除去することが必要なため、(5)の環境整備コンプライアンスは重要である。この点、アメリカでの違法行為は、個人の利益を目的とする単発的な“ムシ型”であり、対処方法は虫に殺虫剤を散布するように、個人に厳しいペナルティーを科すことである」と述べた。
加えて、「コンプライアンスが単なる法令遵守とイコールであれば、それは義務にどれだけのコストをかけるかという経営課題になる。しかし、コンプライアンスを社会的要請への適応と考えれば、『法令上の義務』に応えることを含め、複雑・多様な社会的要請に応えるという、まさに経営上の判断である。これからは、コンプライアンスを単にコストと考えるのではなく、企業の付加価値を高め、進化していくための経営課題であると位置付けるべきである」と強調した。
続いて、日本経団連社会貢献担当者懇談会の嶋田実名子座長が「CSR時代の社会貢献活動」と題し、活動報告を行った。
この中で嶋田座長は、「社会貢献とは、自発的に社会の課題に取り組み、直接の対価を求めることなく、資源や専門能力を投入し、その解決に貢献することである。社会と関わりを持つことで、人材の質的向上につながることも期待される。これが、CSR時代の社会貢献活動を企業が実施するひとつの背景となっている」と述べた。さらに、「日本経団連会員企業と1%クラブ法人会員を対象に行った『2006年度社会貢献活動実績調査結果』によると、企業による社会貢献支出の現状は、支出総額1786億円、1社平均4億5400万円である。支出分野としては、学術・研究や教育が増加傾向にある。また、CSRとは持続可能な地球と社会をめざして、企業が責任を持って事業活動を行うことであり、企業の視点に立つと、企業の社会的、経済的価値を高める活動である。世界的にも“すべての組織は社会的責任を負って活動すべきである”との考え方の下、ISO26000において、CSRのCを取った“SR”を“持続可能な発展および社会の繁栄との調和”等と定義することを検討中である」と述べた。
また「企業の社会貢献活動の変遷をみると、80年代までは利益の一部還元であり、“陰徳こそ美徳”とされ、90年代には大型イベント協賛から効率的で地道な活動に転換しつつ情報開示が進められ、2000年代からはCSRの一環と位置付け、社会的活動に投資することにより持続可能な社会づくりを支援するという考え方になった。こうした変遷の中で、今般、社会貢献担当者懇談会において『CSR時代の社会貢献活動』という本を取りまとめた。バブル期を経て、企業は、資金提供だけでは何も残らないことを学び、資金支援型から、マーケティング支援や物品支援など企業の強みを活かした活動や、企業の持つ体育館などの施設を提供するといった協働型へと移っている」と指摘。「NPOは企業人とは違う目で社会を見ており、企業とNPOとの協働は両者にとって有益である。企業人一人ひとりが社会との関わりを深めていくことが、CSR達成のカギになるという視点をもって、社会貢献活動を見ていただきたい」と述べた。