日本経団連は8月29日、東京・大手町の経団連会館で労働安全衛生部会(清川浩男部会長)を開催した。当日は、厚生労働省健康局結核感染症課新型インフルエンザ対策推進室長の難波吉雄氏を招き、「事業所・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインについて」をテーマとする講演を聴いた。難波氏の講演概要は次のとおり。
今回、このガイドラインを作成した背景として、(1)大企業を中心に新型インフルエンザ対策が進められているが、すべての企業・職場において取り組みが一律に進められているわけではないこと(2)新型インフルエンザとは何かがはっきり認識されておらず、どのような手段で事業継続計画を作成すればよいのかわからないとする意見があったこと――などを挙げることができる。そこで、今回のガイドラインでは、地震などの自然災害との考え方の違い(期間や事業への影響)を明確に示し、企業には社会状況に対する一定の認識を持って事業継続計画を作成してほしいとしている。
新型と通常のインフルエンザを比較すると新型インフルエンザは、鳥インフルエンザが遺伝子の変異によってヒトの世界に侵入し、ヒトからヒトへと感染するようになって発生する。ヒトは、新型のウイルスに対する免疫を持っていないため発病し、死に至ることがあり、通常のインフルエンザに比べて爆発的に感染が拡大し、流行していくと想定され、社会機能や活動が麻痺することになる。
次に、新型インフルエンザへの対応策については、通常のインフルエンザの延長と考えるとわかりやすい。主として、感染リスクに応じた予防、防止対策が必要とされる。感染経路については、現在のところ空気感染の科学的根拠は示されておらず、飛沫、接触による感染対策を十分にとることが重要である。企業においては、迅速な意思決定が可能な体制づくり、従業員や利用客などを守る予防策の実施、新型インフルエンザ発生時の事業継続計画の検討・策定、従業員に対する教育・訓練の定期的な実施が必要とされる。
また、もうひとつの視点として、企業は新型インフルエンザに対し、「感染の予防」と「事業の継続」の相反する目的を考えなければならない。これは、企業が社会的な責任や経営上の観点から事業の継続を考える一方で、人が働くことで感染を拡大するおそれもあり、従業員を危険にさらすことにもなるということである。この相反する目的の下で、働く者の一人ひとりが十分に新型インフルエンザについて認識することが大切であり、職場における感染リスクを低下させる方法として、訪問者の立ち入り制限や検温などが必要である。
難波氏は最後に、このガイドラインについての意見等をパブリックコメントとして求めていると述べ、講演を締めくくった。