日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で、ワシントンDCのシンクタンク Peterson Institute for International Economics (IIE)のアウトリーチ担当部長として活躍し、中国をはじめ東アジアの政治経済情勢に造詣が深く、日米経済連携の強化にも関心の高いシャーマン・カッツ氏と懇談。米国次期政権の通商政策と今後の日米経済関係のあり方について説明を聴いた。懇談会には、司会を務めた本田敬吉アメリカ委員会企画部会長をはじめ、84名が出席した。
カッツ氏は冒頭、サブプライム問題に端を発する米国の景気低迷に加え、資源・食料価格の高騰を受けて、米国民の間では、不平等感が広がり、貧富の格差が拡大していると指摘し、国内の不安要因が増大する中、積極的な貿易自由化策を打ち出すのが難しくなっていると、米国の通商政策をめぐる政治状況について説明。11月4日の米国大統領選挙に向けて、景気対策や経済政策が最重要な争点になると述べた。
続いて、米国大統領候補者である、共和党のマケイン上院議員と民主党のオバマ上院議員の通商政策について言及。マケイン氏は、自由貿易推進派で、WTOのほか、NAFTA(北米自由貿易協定)や米国議会による批准待ちの状態にある韓国、コロンビアとのFTA(自由貿易協定)への支持を表明しており、現ブッシュ政権の通商政策をおおむね継承すること、また、農業州であるイリノイ州選出のオバマ氏と比べ、より積極的に農業への補助金削減を推進するだろうとの見通しを示した。
一方、オバマ氏の通商政策の特徴は、第一に、通商協定に労働・環境条項を含めるべきと主張し、通商相手国に対して、労働基準の引き上げや労働組合の組織化などの順守を求めている点、第二に、グローバル化による負の影響を軽減させる措置として、貿易調整支援の対象をサービス業労働者にまで拡大することや失業者向け医療保険税額控除などを求めている点であると説明した。
NAFTAに関してオバマ氏は、労働・環境面の強化や苦情処理手続きの迅速化などを求めているが、本格的な再交渉には付さないであろうとの見解を示した。また、オバマ政権が誕生すれば、来年中にコロンビアと韓国とのFTAの見直しを検討し、コロンビアには労働条項の強化を、また、韓国には自動車市場へのアクセス拡大を要求し、さらにWTOドーハラウンド交渉については、国内問題に対処する時間を確保するため、来年あるいは再来年まで妥結がずれ込むことを望んでいる向きがあると指摘した。
対中国については、両候補者とも、米中経済関係の一層の緊密化の重要性では意見が一致しているほか、知的財産権の保護や米国が中国から輸入している食品、玩具などの安全性に関する懸念は共有していること、他方、人民元への対応では意見が異なっており、オバマ氏は、通貨為替監視改革法を支持し、中国の人民元切り上げを強く求めているのに対して、マケイン氏は、同法案を支持していないと説明した。
最後に、日米経済関係について触れ、日米EPA(経済連携協定)を推進させるための一つのアイデアとして、GATT第24条との整合性には留意しつつ、まずは両国間で合意しやすい分野から交渉をはじめ、双方の信頼関係が醸成されてきた段階で、より困難な分野へと交渉を移行させるやり方もあるとの見解を述べた。
また、APEC(アジア太平洋経済協力)の議長国が、2009年にシンガポール、10年に日本、11年に米国へ回ってくるため、この3年間が、FTAAP(アジア太平洋貿易圏)構想の実現に向けたイニシアチブを立ち上げるチャンスであると述べるとともに、7月に交渉が決裂したWTOドーハラウンドの交渉再開に向けて、日本の積極的な役割に期待を示し、講演を締めくくった。