日本経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)は1日、東京・大手町の経団連会館で会合を開き、井口泰・関西学院大学経済学部教授から、「欧州各国における移民政策の状況」について説明を聴いた。
井口教授はまず、EUにおける移民政策共通化のこれまでの経緯について、「1995年に欧州5カ国の間で締結されていたシェンゲン協定が発効し、域内における国境管理の廃止という画期的な変化がもたらされた一方、司法・内務協力の強化という課題が残されていた。そこで、97年のアムステルダム条約により、シェンゲン協定をEU法令に格上げするとともに、各国の移民政策を効果的に実施するために、必要な範囲内で、EUに共通移民政策実施の権限を与え、同時に域内司法・内務協力を強化することをめざした」「欧州委員会は、今後の労働力人口の減少や、高度人材の北米大陸への偏在化に危機感を抱き、2000年のリスボン戦略の中で、欧州の競争力強化の観点から、共通移民政策を強化する必要性を強調した。しかしながら、欧州委員会のこうした試みは、ドイツ、フランスをはじめとする主要加盟国の国内労働市場の低迷や移民をめぐる社会問題等により失敗に終わった」と説明。その上で、近年の共通移民政策の動向について、「07年10月、欧州委員会は、移民政策転換に再挑戦し、一定の条件の下で、域外の高度人材に対し、域内における就労と移動の自由を認める『EUブルーカード制度』の創設を提唱した」「08年7月には、EUの司法・内相会合で、不法移民の摘発や国境管理などの共通原則について合意された模様である」と述べた。
次に、各国の移民政策改革の動向について言及。まず、イギリスは、「EU共通移民政策からの適用除外を選択し、移民受け入れは経済成長に貢献するとの考え方の下、08年度より『ポイントベース制度』を導入し、高度人材の受け入れと手続きの簡素化や透明化を図っている」と説明した。次に、ドイツでは、「人口減少と高齢化が進展する中、01年、従来の域外募集停止から決別し、必要な人材を受け入れるためのポイント制度の導入等を盛り込んだ移民法案が提案されたが、与野党の政治的対立を背景に施行停止に追い込まれた。その後、ポイント制度などを除いた形で05年1月に施行された。
また、07年8月には、EUの共通移民政策に沿う形に改正されている」と言及。さらに、フランスについて、「06年5月に、競争力強化の観点から、域外外国人の雇用を原則的に停止する考え方から転換し、法令上、フランスが受け入れるべき高度人材等の外国人労働者のカテゴリーを明記する一方で、外国人労働者の流入が年間7000人であるのに対し、家族呼び寄せが10万人に達するという現状を改善すべく、受け入れ要件を厳格化した。また、政府は、高等移民政策委員会に国別移民受け入れ人数の割当制度の導入を諮問したが、割当制度は違憲とみなされ、実現には至っていない」「EUの共通移民政策について、基本的にはフランス政府の方針と一致しているため、欧州委員会を支援していく考えを表明している」と説明した。
最後に、わが国の外国人労働者の受け入れ拡大について、「現在、わが国では、イギリスや米国などの『アングロサクソン型』の出入国管理システムを採用しているが、現行制度のままでは、外国人住民の権利と義務の履行確保が難しい。こうした中で、日本人と意思疎通の困難な外国人コミュニティーが形成され、外国人2世の大部分が社会の底辺に落ちていくことなどが危惧される。よって、市町村など自治体が実質的に権限、情報および財源を有する『大陸欧州型』のシステムに近づける制度的なイノベーションを行うことが不可欠である」と述べた。