日本経団連(御手洗冨士夫会長)はJA全中、JA全農との共催、農林水産省の後援で7月29日、都内で「地産地消セミナー」を開催した。セミナーには日本経団連会員企業、JAグループや行政の関係者ら約250名が参加、基調報告や事例紹介などを聴いた。
冒頭、主催者を代表してあいさつに立った荒蒔康一郎・日本経団連農政問題委員会共同委員長は、農業の活性化、地域振興のためにも、地域で生産された農産物を地域で消費する「地産地消」が重要視されてきていると指摘。日本経団連としても力を入れて取り組んでいること、同時に企業によっても地場農産物を活用した新商品の開発や、販売促進への取り組みが進められていることを紹介した。また荒蒔共同委員長は、「地産地消」の取り組みは、食品の鮮度・安心感の向上、農業に対する消費者の信頼確保、流通コストの低減、地域の食文化保全などさまざまなメリットがあるほか、農産物価格の高騰、環境問題といった社会問題とも関連が深いと説明した。
続いてJA全中の前嶋恒夫常務理事があいさつ。食料の自給率の向上、地域活性化、地域循環型社会の構築、地球温暖化防止、低炭素社会の実現に向けて農商工が連携していくことの必要性を強調した。来賓あいさつで澤雄二・農林水産大臣政務官(当時)は、セミナー開催の意義を述べた上で、これが契機となり、経済界と農業界の連携協力のさらなる推進に期待を表明した。
セミナーは続いて基調講演に移り、まず日本経団連の椋田哲史常務理事が、産業界と農業界との連携・協力の推進に取り組んでいる日本経団連の活動について報告した。この中で椋田常務理事は既に日本経団連会員企業では「地産地消」をはじめとする国産農産物の積極的活用とともに、契約栽培等による生産者との連携強化、栽培・生産技術・生産資機材等の提供や新品種の開発、流通の効率化・高度化やブランドの確立、販路の確保・拡大、輸出促進などさまざまな取り組みを行っていることを紹介。さらには、コストダウンや現場での作業改善等、製造業で培ってきた経営改善手法を農業分野へ移転する取り組みや、農業経営の高度化・多角化を支援するコンサルティング・資金提供等の協力も行われていると述べた。また椋田常務理事は、「産業界と農業界との連携はWin‐Winの関係を構築することができる取り組みであり、引き続き産業界と農業界との協力・連携の強化を推進していきたい」との考えを示した。その上で、その一環として現在、社員食堂等における地場農産物の積極的活用の先進的な取り組みとしてキヤノンの事例を会員企業・団体に紹介し、「地産地消」の推進を呼びかけていると説明した。
続いて基調講演を行ったJA全農の秋田俊毅常務理事は、「地産地消」の意義とともに具体的な例として、農産物直売所・地元スーパー・地元コンビニでの販売や、学校給食・企業の社員食堂・地元レストランへの供給などを挙げた。そして、農産物の価格設定や供給体制等の課題について指摘し、「社員食堂への地場産農産物供給について、これらの課題を克服し信頼関係を確立しながら、企業との連携を発展させ地域の活性化をめざしたい」と述べた。
また、農林水産省の鳩山正仁・生産局生産技術課長は、社員食堂での「地産地消」の取り組みを進めるにあたっては、食材の安定供給、調理しやすい農産物の供給、価格の安定、産地における安全安心へ向けた努力への配慮、季節的な変動等への対応が必要であると指摘、併せて行政が行う支援策などについて説明した。続く事例報告では、キヤノン、JA埼玉ひびきの、NECライベックスが社員食堂における「地産地消」の取り組みを、セブン‐イレブン・ジャパン、JA全農ちば/キリンビール(共同発表)が企業の地場農産物の活用についてそれぞれ紹介した。
閉会にあたりあいさつを行った小林栄三・日本経団連農政問題委員会共同委員長は、今後、農政問題委員会では、昨今の世界的に厳しさを増す食料事情の中で、国民に対し食料を安定的に供給するための課題について検討し、日本経団連としての考えを取りまとめるべく作業を開始すると述べた。その上で、これらの検討にあたっても、引き続き食料・農業問題がわが国全体の課題であるとの問題意識を共有し、農業関係者との意見交換や密接な連携を進めるとともに、「地産地消」の推進など、産業界と農業界との連携・協力の具体的な取り組みも着実に進めていきたいとの考えを示した。