日本経団連タイムス No.2914 (2008年7月24日)

最近のイラン情勢など聴く

−アラグチ駐日イラン大使から/日本イラン経済委員会総会


日本経団連の日本イラン経済委員会(野村哲也委員長)は4日、東京・大手町の経団連会館で2008年度総会を開催した。総会には来賓としてセイエド・アッバース・アラグチ駐日イラン・イスラム共和国大使を招き、最近のイラン情勢と日本・イラン両国関係の展望について聴いた。アラグチ大使の説明概要は次のとおり。

両国関係は大変良好である。阻害要因があるとすれば、イランの平和的原子力開発を取り巻く国際情勢である。

わが国の原子力開発プログラムは核拡散防止条約(NPT)の義務である核不拡散、軍縮、平和利用の3つの原則の下で推進されている。現在、今後の進め方についてはわが国の提案と、国連安保理5カ国にドイツを加えた6カ国(5+1)による提案の2つが検討されている。わが国の提案には、国際社会の一員として平和と安全保障に貢献するための責任を果たす用意があるとのメッセージが込められている。また、核開発はNPTにのっとった権利であると主張している。他方、5+1は、さまざまな分野での協力を提案しているが、ウラン濃縮プログラムの停止を前提条件としている。イランがこれを受け入れることは困難であるが、2つの包括的提案が俎上に乗っているせっかくのチャンスであり、平和的な解決のために努力できればと思う。イランには話し合う用意があり、極めて平和的な原子力開発だけを行っているという自負もある。双方が胸襟を開いて議論すれば近い将来必ずや何らかの解決策が見いだせると思う。G8外相会合の声明では、議長国の日本がイランとの対話窓口となることとされた。米国とも良好な関係を持つ日本の仲介に期待している。

次に日本とイラン間の経済協力の可能性について触れたい。イランは世界屈指のエネルギー資源の埋蔵量と生産量を誇り、最新の原油の可採年数(推定値)は86年、天然ガスは100年以上である。この分野には今後15年で5000億ドルの巨大な投資機会がある。また汚染対策や省エネルギーで優れた技術を持つ日本企業と協力を進めたいと考えている。

自動車産業の育成も重要な政策の一つである。イランの自動車需要は大きく、輸入と国内生産のトータルで年間110万台に上る。日本企業はイラン市場でより大きなシェアを確保する可能性がある。農業、工業、鉱業、サービス業、手工芸品も有望だ。農産品ではサフランやピスタチオの生産量が世界一である。ジェトロ(日本貿易振興機構)の協力を得て最近減っている農産品の対日輸出を増やしていきたい。鉱物資源では鉛、亜鉛、コバルトなどが豊富である。石油化学では製品の輸出も開始し、近年その額が急増している。

また、国営企業の民営化も進めており、現在、イラン航空をはじめ、銀行、保険、製油所、通信、運輸、鉄鋼、自動車など232の企業が民営化の候補となっている。

07年8月から対日原油輸出の決済が円建てになり、昨年だけで日本の銀行口座の円建て預金の残高が120億ドルに達した。この円資金を担保とする取引を行うことも可能である。ただし、これをより一層、有効に活用する仕組みはまだ出来上がっていない。両国の経済関係を強化するためにいかに使うかが課題であり、日本企業の知恵に期待している。

【国際第二本部中南米・中東・アフリカ担当】
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