日本経団連タイムス No.2910 (2008年6月26日)

「大統領選挙が米国の通商政策、FTA交渉に与える影響」に関するセミナーを開催


日本経団連は10日、東京・大手町の経団連会館に、米国の自由貿易協定(FTA)交渉やWTO交渉に関して幅広い経験を有する Sandler, Travis & Rosenberg 法律事務所のトラヴィス弁護士を招き、大統領選挙が米国の通商政策、FTA交渉に与える影響に関するセミナーを開催した。セミナーには、司会を務めた本田敬吉アメリカ委員会企画部会長をはじめ、75名が出席した。トラヴィス弁護士は、昨年妥結した米韓FTAにおいて韓国政府に対しても助言を行っている。

トラヴィス氏は、はじめに、ブッシュ政権と米国議会で多数派を占める民主党の通商政策について触れ、現政権がコロンビア、パナマ、韓国とのFTAの早期締結をめざしているのに対して、民主党は、経済の自由化により負の影響を受ける社会的弱者を救済するための貿易調整支援や、労働者の労働環境や賃金水準の改善、輸入品の安全性確保のための監視強化、対テロ対策のためのサプライチェーン管理の強化などを求めており、FTA推進派の現政権と保護主義色を強めている議会との間でこう着状態が続いていると現状を説明した。

また、次期米国大統領候補の共和党マケイン上院議員は、自由貿易が企業の競争力を高め、雇用創出や給与水準の改善につながるとし、自由貿易を推進する姿勢を示している一方、民主党オバマ上院議員は、企業の対外投資に対する優遇措置を限定し、米国内の雇用拡大につなげることや、FTAに労働、環境基準を盛り込むよう主張している点を紹介した。通商協定については、オバマ氏は米国の製品やサービスが公平に扱われることに重点を置き、NAFTA(北米自由貿易協定)を再評価して、環境面と労働面について改善すべき点は再交渉すると述べているのに対して、マケイン氏は、NAFTAを含めた通商協定を順守する姿勢を示し、再交渉には付さないとの立場を表明しているとの指摘があった。

さらに、次期政権が直面する通商問題として、移民や国境安全措置、環境、雇用、製品安全、政府系ファンドの規制、腐敗や贈収賄対策、中国問題などを挙げた上で、米国民の間では輸入品の安全性への懸念が高まっており、大統領選でだれが勝利を収めようと、今後、輸入品に対する監視や審査が強化される方向性になることは間違いないと強調した。

また、今後の通商政策では、FTAなど包括的な通商協定ではなく、政治的なコンセンサスを得やすい、金融や投資など分野を限定したセクター別アプローチが検討されるのではないかとの見解を示した。

トラヴィス氏は最後に、米韓FTAについて言及し、最大の懸案事項であった農業問題では、米国はコメ問題で譲歩した代わりに、牛肉、豚肉や米国産オレンジの輸入関税の段階的撤廃で韓国と合意した点を説明した。

また、交渉が難航した自動車分野では、米国は3000CC以下の自動車の関税2.5%の即時撤廃と3000CC超の自動車関税の3年以内の撤廃、小型トラックに対する関税25%の10年以内の撤廃に合意し、他方、韓国は自動車と自動車部品に対する関税8%の即時撤廃や排気量基準税制の改定などに合意したとの説明があった。

しかし、米国の自動車業界では、両国間の自動車貿易額が米国の対韓輸入額109億ドルに対して、対韓輸出はわずか7億ドル余しかない現状で、対韓輸出の大幅な改善は見込めないとの見方がある一方、韓国では、2.5%の関税撤廃だけで、米国市場において、日本や中国メーカーに対する競争優位を確立できるのか疑問視する声が挙がっている点などを指摘した。

【国際第一本部北米・オセアニア担当】
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