日本経団連は13日、東京・大手町の経団連会館で防災に関する委員会(數土文夫共同委員長、木村惠司共同委員長)を開催し、内閣府参事官(地震・火山対策担当)の池内幸司氏から、首都直下地震が発災した際の帰宅行動シミュレーション結果と対策の方向性の概要について説明を受け、意見交換を行った。また、池内氏の講演に続いて、防災に関する委員会内に昨年度発足した首都直下型地震対策ワーキング・グループの活動状況と今後の活動予定について、笹本前雄座長から報告があった。
池内氏の説明概要は次のとおり。
東京湾北部地震(M7.3)が平日の日中に発災すると、多数の従業員や買い物客が都心に滞留するため混乱が生じる。また、倒壊家屋による道路の閉塞、大規模な火災延焼、落下物等の影響で、慌てて一斉に帰宅を開始すると帰宅者本人に危険が及ぶおそれがある。首都直下地震対策大綱でも一斉帰宅行動の抑制、安否確認手段の活用、円滑な帰宅支援等の対策がうたわれていたが、従来は定性的な方向性を示すにとどまっていた。今回の帰宅行動シミュレーションにあたっては、1都3県の全市区町村にアンケート調査を実施し、帰宅者の心理状況や実際の道路ネットワークを考慮して、定量的な検証を推し進めた。
現状のまま対策を怠っていると、天候が晴れの昼に発災した場合のシミュレーションでは、満員電車状態の道路を3時間以上歩いて帰宅する人数が約200万人に達する。この場合でも、交差点や歩行者の逆流による歩行速度の低下を見込んでいないため、実際にはもっと深刻な状況が起きる可能性もある。混雑緩和には、翌日帰宅や時差帰宅の効果が特に大きいが、家族の安否確認ができていることがオフィス等に待機する大前提になる。
建物の耐震化・不燃化も、人命や財産価値を守ることに加えて、帰宅困難者対策への効果が大きい。混雑状況の情報提供も重要であるが、こうした対策を総合的に進めると劇的な効果が現れ、長時間満員電車状態に置かれる人が激減する。
多くの人が通行する放射状の道路等の一時休息場所や水・トイレを確保する必要があり、災害用トイレやトイレット・ペーパーの備蓄状況、トイレの待ち時間を調査している。帰宅困難者支援場所としては公園や都立高校等が想定されるが、避難所での帰宅困難者への対応方法のマニュアル化が課題である。また、複数の安否確認手段を活用し、ひと呼吸置いて可能な限り情報を把握してから行動することが肝心となる。今年度からは建物の耐震化・不燃化の促進のために補助対象を大幅に拡大し、学校施設の補助率拡充や交付税措置等が施された。
まず、木村共同委員長が、「今回のシミュレーションで精度が増し、明確になった課題もある」と評価した上で、行政が情報を集約・提供するネットワークを構築し、中央政府や地方公共団体間の意思疎通、施策の整合性を向上させる必要があると指摘した。参加者からは、小学校・幼稚園・保育園に通う児童の安否情報を確認する仕組みの早期構築の要望があった。また、警察や消防が救助・救急活動や消火活動を優先し、帰宅困難者への情報提供や誘導等の対応が限定的となる中で、帰宅者が車道にあふれ出た場合の緊急車両による緊急対応活動自体を見直す必要性も指摘された。