日本経団連は6日、東京・大手町の経団連会館で金融制度委員会(古川一夫委員長、奥正之共同委員長)を開催した。同委員会では、証券取引等監視委員会の内藤純一事務局長と、河野一郎課徴金・開示検査課長を招き、金融商品取引法下の証券取引等監視委員会の活動について説明を聴取するとともに意見交換を行った。
証券取引等監視委員会は1992年に大蔵省に設立され、2005年の課徴金制度導入を契機にその機能・役割は転換期を迎えた。さらに昨年、金融商品取引法の施行に伴い、証券検査の範囲や開示検査対象、犯則事件調査などについて、証券監視委の機能や権限が一層強化された。
昨年、新委員長就任に伴い発表した「公正な市場に向けて〜『市場の番人』としての今後の取組み」では、基本的考え方として以下の2本の柱を挙げた。第一は、機動性・戦略性の高い市場監視の実現であり、具体的内容として監視機能の戦略的活用による迅速かつ効果的な市場監視、他機関との連携強化などが含まれる。第二は、市場規律の強化に向けた働きかけである。これは、新しく盛り込んだ柱であり、インサイダー問題や相場操縦の問題など、個別の問題に共通する一般的要素を抽出し、日本証券業協会や東京証券取引所などとも連携して、ルールの見直しや、市場参加者の規範を構築する取り組みを行っていくことが強調された。
昨今、インサイダー事件についての新聞報道等が、社内ルールの見直しや、コンプライアンス体制の強化などにつながっていることを評価する一方、投資家サイドの姿勢として「この程度なら大丈夫だろう」という気持ちの緩みが課徴金事案に発展してしまうことが多いことを指摘。証券監視委は、常にマーケットの動きを細かく監視して、不自然な株価変動が起こった場合には調査の上で勧告・告発するという方針を述べた。また、インサイダー取引は問題を発生させた企業にとって多大な社会的損害をもたらすことから、情報を遮断するためのチャイニーズウォールの設置強化などを含め、個々の企業による取り組みの重要性を指摘した。
開示の虚偽記載問題については、会社内のコーポレートガバナンスの成熟度が大きく影響しており、(1)正しい情報がトップに上がらずに問題が生じるケース(2)特に新興市場に見られるように野心的な業績予想を下方修正できずに問題が生じるケース――が多いことが紹介された。証券監視委は、虚偽記載などの対応のため、05年から本格的な開示検査体制を整えていると述べた。
また、新興市場においてプロの投資集団に不透明な第三者割当増資をし、M&AやMSCB(転換社債型新株予約権付社債)を乱発し、株価を乱高下させるような悪質な事例を指摘し、これに対しては上場基準を厳しくするのではなく、悪質な者を早期に市場から退出させるよう、ルールの厳格な運用が必要であるとした。
金融商品取引業者等の検査においては、将来、より大きな問題を生じさせかねないようなリスクに着目し、金融商品取引業者等の内部管理体制のあり方を是正するため、仮に直接的な法令違反がなくても、公益または投資家保護の観点から問題があるときは業務改善命令を課すという金融商品取引法51条の趣旨を説明した。さらに、市場のグローバル化を受け、不正取引は国境に関係なく行われるが、調査権・検査権限には国境が存在するため、海外の当局同士との連携が不可欠であると述べた。