日本経団連事業サービス(御手洗冨士夫会長)は2月26日、東京・大手町の経団連会館で「ダイバーシティ推進支援セミナー〜ワーク・ライフ・バランスの実現をめざして」を開催、約50名が参加した。セミナーでは、東京大学社会科学研究所の佐藤博樹教授が「女性の活躍の場の拡大とワーク・ライフ・バランス支援-管理職の役割と働き方改革」をテーマに講演するとともに、ダイバーシティ推進企業3社の事例を紹介した。
佐藤教授はまず、女性の活躍の場を拡大するための企業の取り組みとして、(1)現場の管理職の役割(2)ワーク・ライフ・バランスの実現――の2点の重要性を指摘。女性が活躍できる仕組みづくりとワーク・ライフ・バランスの双方を実現するためには、旧来型の男性中心の仕事管理・働き方自体を見直していかなくてはならないと強調した。
管理職の現状については、男女にかかわりなく、能力向上の機会を与え、適切な人材活用を行うという役割をきちんと果たしていないことが問題と指摘。仕事の経験を通じて部下が能力を発揮できるように、適切な目標設定、OJTを通じた育成、意欲的に仕事に取り組めるような環境整備が求められていると述べた。また男女、年齢、過去の評価にかかわらず、部下の可能性を適切に判断し、その可能性を伸ばすような仕事の機会を与えることが重要と指摘した。
次に女性管理職の問題に言及し、女性が管理職に登用されるための条件として、(1)管理職になるために経験すべき仕事に女性を配置すること(2)結婚、出産にかかわらず仕事を続けられること――を挙げ、そういう意味からもワーク・ライフ・バランスが重要になってくると説明した。
続いてワーク・ライフ・バランスについては、期待される仕事上の責任を果たした上で、仕事以外に取り組みたいこと、または取り組む必要があることに取り組める状態と定義し、社員がその逆であるワーク・ライフ・コンフリクトに直面しないようにすること、また直面した場合にそれを解消することがワーク・ライフ・バランス支援であると説明。ワーク・ライフ・バランス支援は、従業員に意欲的に働いてもらうための新しい労働条件であるとの認識を示した。
その上でワーク・ライフ・バランス支援を行うにあたっては、(1)「時間制約」を前提とした仕事管理・働き方(2)両立支援制度などの導入と制度を利用できる職場づくり(3)多様な価値観を認める職場づくり――が必要と指摘。「時間制約」を前提とした働き方とは、仕事に投入できる時間に制約のある従業員が増加する中、与えられた時間資源の範囲内で、仕事の付加価値の最大化をめざすもので、そのためには働き方の発想を転換し、仕事の優先順位付けや無駄な仕事の排除によるメリハリのある働き方が求められると述べた。またワーク・ライフ・バランス支援の定着の観点から、従業員が相互に補完し合えるような職場の仕組みの構築の重要性を指摘し、これにより生産性が高く、リスク対応力がある組織につながっていくと説明した。最後に佐藤教授は、ワーク・ライフ・バランス支援のためには、多様な価値観を持つ社員の存在を理解し、支援していくという管理職の意識改革が必要と締めくくった。
講演に続いて東京電力労務人事部ダイバーシティ推進室長の雨宮弘子氏、松下電器産業e‐Work推進室長の永木浩子氏、帝人クリエイティブスタッフ人財部ダイバーシティ推進室長の黒瀬友佳子氏が、自社の取り組みについて報告し、その後参加者との意見交換を行った。参加者からは、「推進にあたっての管理職の役割の大きさを実感した」「実際の苦労話を聞くことができ、自社の取り組みの参考となった」などの声が寄せられた。
事例に関しては、日本経団連出版刊『女性社員活躍支援事例集―ダイバーシティを推進する11社の取り組み』(A5判、212ページ)に詳しく記述されているので、ご参照いただきたい。