日本経団連タイムス No.2899 (2008年3月27日)

建築家の安藤忠雄氏が講演

−「緑あふれる東京」再生/世界に地球環境保護意識醸成へのメッセージ発信


海外で頻繁に講演を行う安藤忠雄氏は、海外からみた日本の印象をこう語る。「経済大国」「長寿国」、そして「美しい自然」――。しかし、今の東京、大阪といった大都市をみるとどうだろうか。緑は少なく、隙間なく建物が建っている。また、かつて緑にあふれていた瀬戸内海の島々は、今では、はげ山と化し、産業廃棄物であふれている。「日本の土木、建築技術は世界的にも大変優れているが、もう少し計画的に建物を建てられないものか」「これが自然とともに生きてきた民族なのか」――。一方で安藤氏は、かつて山の大部分を伐採された神戸の六甲山が植林により再生している例を紹介し、「日本人の自然に対する愛情は依然として消えていない」との思いをめぐらす。

こうしたことから自身が手掛けた表参道ヒルズ(渋谷区)の建設にあたっては、人々の心に根付いている都市の光景を残そうということで、できるだけ街路樹のケヤキ並木の高さを超えない建物を造るよう提案、それを実現した。

また、東京都は、「東京から地球のことを考えよう」ということで、東京湾のゴミ埋立地を「海の森」に再生する計画を進めている。これは、市民による1口千円の募金活動を行い、ボランティアを募って、森を再生させる試みであり、昨年4月から宇宙飛行士の毛利衛氏や登山家の野口健氏らとともに、安藤氏自ら現地で木を植え始めた。そのほか緑の道をつくったり、学校のグラウンドを緑化したりする計画もある。既に、東京急行電鉄の線路沿いを緑化する計画の取り組みが始まっており、安藤氏が設計を手掛ける上野毛、等々力、渋谷の各駅周辺の斜面はすべて緑化されることになっている。

近年、夏の猛暑が深刻になっているが、企業が保有する屋上や敷地で、こうした緑化の取り組みを行えば、夏の熱帯夜が年間4日減ると言われている。これが実現できれば、自然に対する人々の意識が変わるかもしれない。このような取り組みを通じて、世界中の人々の環境に対する意識を深めていきたいというのが安藤氏の思いである。

わが国は、戦後、経済重視で来たが、「21世紀は、果たして本当に豊かになったのかを考える時代である」と安藤氏は指摘。そして、「一人ひとりが何をできるか考えなければ、今の子どもたちが成長するまでに、地球はなくなっているかもしれない」と警告する。世界に地球環境保護の意識を醸成するために、東京からメッセージを発信する意義は大きいといえよう。

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本稿は昨年12月5日、東京・大手町の経団連会館で開催した日本経団連常任理事会における安藤忠雄氏の講演「緑あふれる東京の再生を目指して」に基づくものである。

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