日本経団連が2月中旬に実施した国際会計基準(IFRS)に関する欧州調査(概要前号既報)では、今後のわが国の会計制度のあり方を検討していく上で、何点かの重要な示唆が明らかとなった。以下に調査団(団長=八木良樹日本経団連経済法規委員会企業会計部会長)の所見を紹介する。
IFRSは、2005年からEU域内の資本市場における統一基準として採用され、昨年11月には、米国証券取引委員会(SEC)が米国に上場する外国企業に対して、その使用を容認している。さらに、SECは米国企業に対してもIFRSか米国基準かの選択を認める方向である。欧米以外でも、カナダ、オーストラリア、中国、インド、韓国など、数多くの国がIFRSの使用を認めている。
世界の三大市場の一角を占める東京市場としても、このような欧米の流れを踏まえ、どのような形でIFRSを受け入れていくか、早期に検討を開始し、市場関係者の意見を調整しつつ結論を得ることが求められる。
今回の調査から明らかなように、欧州においてIFRSは上場企業の連結財務諸表作成のための会計基準として用いられている。配当規制や税務計算の目的、非上場会社や中小企業に対しては、IFRSではなく、国内会計基準が用いられている。わが国においても、国際的な投資家向けの開示である連結財務諸表と、会社法上の配当規制や法人税の所得計算の基礎となる個別財務諸表とは区分して考えていく必要がある。そして連結財務諸表に対してはIFRSを、個別財務諸表に対しては国内会計基準を適用することが考えられる。また、上場企業でも必ずしも国際的な活動を行っていない企業も多いことや、日本の国内会計基準も十分に国際的な水準にレベルアップしていることを踏まえ、米国と同様に、連結財務諸表へのIFRSの適用は選択制とすることが考えられる。また、開示内容の国際的な整合性の観点から、金融商品取引法上の開示では、個別財務諸表を廃止し、連結財務諸表に一本化することを検討すべきである。
IASBでは、企業業績の報告様式を抜本的に見直し、当期利益を廃止するといった検討を米国の会計基準設定機関であるFASBとの間で進めている。このような抜本的な見直しには、投資家、財務諸表作成者、利用者など多くの市場関係者の意見を十分に取り入れていくことが不可欠である。今回の欧州調査においては、IASBが必ずしも市場関係者の意見を十分考慮していないといった懸念が数多く指摘された。また、欧州の産業界や各国の会計基準設定機関から、日本とも連携を図りながら意見を発信していきたいとの要望があった。わが国としても、より人的なネットワークを広げ、新たな会計基準の設定に際し、草案の起草段階から関与を深めていく必要がある。
米国での使用が認められたIFRSは実質的にグローバルスタンダードとしての位置付けを確立しつつあるが、日本国内ではいまだ十分な理解が浸透していないものと思われる。IFRSに対する理解促進のための広報や、将来、IFRSを使用するケースに備え、企業側、監査側などにおいて、あらかじめ人材の育成を行う必要がある。
日本経団連では、今回の欧州調査の結果を踏まえつつ、有識者からのヒアリングやアンケート調査を実施し、今後のわが国会計制度の方向性に関する産業界の基本的考え方を取りまとめる予定である。