日本経団連フォーラム21は1月18日、東京・大手町の経団連会館で、月例講座を開催した。第1講座では、一橋大学大学院商学研究科の伊丹敬之教授を講師に迎え、「トップマネジメントの条件」をテーマに、その考え方を学んだ。
講義の概要は、次のとおり。
経営と経営者を考えるには三つの基本がある。一つ目は、経営努力とは他人を通して事をなすこと、あるいは他人に仕事をやってもらうということである。経営のむつかしいところは、多くの人に当たり前のことを当たり前にやってもらうことであり、そのための人心掌握、人心統一こそが大切である。
二つ目は、仕事の現場には、カネ、情報、感情の三つが常に流れているということである。近年は、カネに過剰の注目が集まるが、これらの要素は常に総合して判断することが必要である。
三つ目は、企業はヒトの結合体であると同時に、カネの結合体でもあり、その二面性が分かちがたく存在するということである。ヒトとカネの折り合いをどうつけていくのかが、経営者の役目となる。
経営者には、時代を超えて三つの役割がある。中でも集団の求心力の中心となる「リーダー」の役割が最も重要で、その条件は人格的魅力と筋の通った判断ができることである。次は、社会に訴え、社会から内を守る「代表者」としての役割であり、その条件は結果責任への責任感と社会への倫理観を持つことである。そして第三は、マクロマネジメントの変数設計をする「設計者」の役割を果たすことである。その条件は戦略眼と組織観を持つことである。経営者の中には、設計の才能はあってもリーダーたり得ない者も多く、役割を分担して考えることで成功へとつながることもある。
ミクロとマクロのマネジメントの間には、視野や認識、経験において壁が存在する。その違いを認めた上で、経営者はマクロマネジメントを行う。事業部長がいきなり社長になっても、その視野の範囲、経験値から、すぐに企業全体の経営はできない。また、いくらミクロマネジメントの経験が豊富でも、それはマクロマネジメントの一部にすぎない。マクロマネジメントは、ディテールを把握することなく最終判断をしなければならない立場に立つ。しかし、そのような経験ができることはまれで、むつかしくもあり、孤独でもある。トップマネジメントを実施する者は、孤独に打ち勝ち、歴史と理論から大いに学ぶことが求められる。
経営者に求められる三つの資質は、エネルギー、決断力、情と理である。エネルギーはいうまでもないが、決断力は判断力と跳躍力の和で示される。判断は論理を突き詰めることで可能となる。跳躍力の源泉は、自らが持つ哲学、あるいは倫理観である。これを磨き、跳躍の経験をした上で、失敗したときの処理能力を持つことでその資質は高まる。また、情は人間の心情、理は物事が動く論理であり、このバランス感覚が不可欠とされる。
名経営者は、そのだれもが名教育者である。両者には人材育成の大切さが共通しているだけではない。部下に仕事全体の方向を示し、環境を整備し、彼ら自身が自分で仕事をやるプロセスを刺激し、これを応援する。この一連の経営の要諦は、部下を学生に置き換えると教育の要諦となる。経営も教育も、ともに人を動かすことである。
なお、第2講座では、フォーラム21のアドバイザーの一人である竹内弘高一橋大学大学院国際企業戦略研究科長が、7月に実施した講座「競争優位を確立するための戦略」の補講を行った。