日本経団連は1月24日、東京・大手町の経団連会館で中小企業委員会(指田禎一委員長)を開催し、ザ・リッツ・カールトン東京インターナショナル・セールス・オフィスの Regional Director, Japan 高野登氏から、「ザ・リッツ・カールトンのサービス戦略と人材育成」について講演を聴取した。
講演内容は次のとおり。
同社の目標は、「社会に対して価値を創り出していく会社」になることである。その社会を同社に近い順に並べると、(1)従業員とその家族(2)業者とその家族(3)顧客――の順番になる。サービスを提供する顧客が最後になる理由としては、ホテル業界においては、顧客満足度を上げるためには、まずは従業員満足度を上げていく必要があるためである。人間というものは、たとえ考えたとしても自分の経験した範囲内でしか解答を出せないため、自分が経験した満足度以上の満足度は実現できないという考え方に基づいている。この考え方に基づき、従業員が同社で働くことの喜び・誇りを感じ、働くことへの満足度を高めながら、同社で一緒に働く業者についても、同社と一緒に仕事をすることに対して喜びや誇りを持ってもらうことが必要であると考えている。こうすることで、従業員と業者の間で良好な関係を築くことができ、その効果が顧客へと伝わり、結果、顧客満足が高まることになる。なお、予算や売上を第一目標に掲げてしまうと、従業員の発想・行動がその数値目標に縛られてしまい、結果、顧客満足度は上がらなくなってしまう。
同社では顧客ニーズを「常識範囲の領域(言葉にされるニーズ)」と「可能性の領域(言葉にされないニーズ)」に分類している。前者については、マニュアルの作成や顧客情報システムの活用により、全員が共有化し、サービスを行えるようにしている。また、後者については、従業員全員に、会社のビジョンやミッション等を記載した「クレドカード」を配布することで、従業員が会社のビジョンやミッションを常に意識しながら、自らが考え、行動できるようにしている。加えて、他店舗で行ったサービスや起こった出来事などについて全世界でその情報を共有化し、仮に自分の店舗でそのようなことが起きた場合にどのように対応するかということを事前に確認している。
従業員に対する同社のモットーは、前述の「クレドカード」の中に、次のとおり記載されている。
「我々は紳士・淑女であるお客様にお仕えする紳士・淑女です」
ここに込められた意味は、顧客と従業員とは同じ目線で立っており、従業員は顧客から尊敬される存在でなければならないということである。そのために、同社は従業員の多様性を尊重し、成長を支えるような取り組みを進めている。
同社の人材育成において徹底している点は、繰り返し行うことと、強制的に考えさせることである。前者については、オリエンテーションで同社のことを学ばせても、簡単には体得できないため、そこで学んだことを思い出させ、浸透させていくことを地道に繰り返している。そのための仕組みの一つとして、全世界で同じ日に同じ話がなされる機会をつくっている。
また、後者については、「ザ・リッツ・カールトンらしさ」を従業員個々人が考えて行動するよう、強制的に考えさせるような仕組みを作り、そのうち自然と自ら考えられるようにしている。その一つの仕組みとして、前述のクレドカードを活用し、「らしさ」を考えさせるようにしている。