国際標準化機構(ISO)の社会的責任(SR)に関する規格ISO26000策定を目的としたワーキンググループ(WG)の第5回総会が11月5日から9日の日程で、ウィーンで開催され、78カ国、37機関からオブザーバーを含む約390名が参加した。ISO26000は、ISO9000シリーズやISO14000シリーズと異なり、認証や契約に用いることを意図したものではなく、企業、政府、労働組合、消費者団体、NGO等、あらゆる組織が社会的責任に取り組む上でのガイダンスとして使うものである。今回の総会は、ISO26000の第3次作業文書(WD3)への7225のコメントに基づく重要課題に対する合意形成をめざして開催された。日本経団連からは6名が参加し、建設的な提案を行ってWGの議論に貢献した。その模様については、11月26日開催の日本経団連社会的責任経営部会において、参加者が報告を行った。概要は次のとおり。
WD3は初めて全編にわたって文章化された規格案であるが、100名超が15の起草チームに分かれて執筆作業に携わったため、具体的な記述内容の細分化の程度やトーンの一貫性に欠けるという弊害が生じた。そこで、既存の起草チームに代わって、規格の一貫性と整合性を確保するためにドラフト全体を統合的な視点から起草する少人数による起草チーム(IDTF=Integrated Drafting Task Force)が新設された。IDTFは、ステークホルダーのバランスを考慮して構成され、透明性と審議継続性を確保するための仕組みも導入されたため、今後、規格の質を効率的に向上させる道筋が開けた。
WD3に対する膨大なコメントの中から重要課題等をあらかじめ特定し、総会で集中的に討議した結果、規格全体にわたって共通の理解が必要な用語(社会的責任、ステークホルダー、ステークホルダー・エンゲージメント)の定義等、多くの分野で今後の道筋について暫定合意に至った。日本産業界からは、組織のガバナンスの位置付け、適合性評価を目的としないガイダンス文書を策定するための用語の使用法等について提案を行い、SRに関する規格が非関税障壁や政府調達要件に変容することを懸念する途上国や中小組織に対する配慮を求めて、WGの議論に貢献した。
当初の規格策定計画では、今回の総会後に委員会原案(CD)に移行する予定で、ISO26000の早期発行を求める市場のニーズを背景に、CD推進派が過半数を超えた。その一方で、現状のWD3の質に照らし合わせて、CDに移行することに反対する意見も継続的に出た。いずれの場合にも長短難易があるが、CD移行のコンセンサスが形成できなかったため、最終的にはISOのルールに従って、第4次作業文書(WD4)を策定して規格の成熟度を高めることで決着した。規格策定計画に関しては現在見直し中であるが、規格の発行時期は、当初予定の2009年11月から10年9月となる予定である。
既存の規格策定グループとIDTFとの円滑な引き継ぎと連携が実現し、効率的な起草作業が滞りなく実施できるかがカギである。国内の手続き面では、CD移行後のコンセンサス形成プロセスを明確化し、マルチステークホルダー間の合意を形成し得る環境を十分に整備する必要がある。規格の内容面では、中小組織の実態に配慮したガイダンスを提供することが重要である。08年9月にサンティアゴ(チリ)で開催される次回WG総会までに規格策定作業が大きく進展するよう、日本経団連として引き続き動向を注視し、積極的に関与していく必要がある。