日本経団連のアメリカ委員会企画部会(本田敬吉部会長)は11月20日、東京・大手町の経団連会館で、米国で事業活動を行う日系企業が留意すべき雇用法関連問題に関するセミナーを開催した。訴訟社会といわれる米国で事業を展開する日系企業は、連邦および州レベルの雇用法を正しく理解し、事業活動に伴う雇用関連問題に適切に対処することが求められている。
そこで同セミナーでは、米国のエプスタイン・ベッカー&グリーン法律事務所から、雇用法の専門家であるロナルド・M・グリーン弁護士ほかを招き、企業の人事・法務担当者など36名の参加を得て、米国雇用法関連問題の最新動向について幅広く説明を聴くとともに、意見交換を行った。
セミナーではまず、ロナルド・グリーン弁護士から、米国では訴訟関連ビジネスは医療産業に次ぐ大きな市場で、GDPの約4%を占めるといわれること、訴訟にかかわる費用は集団訴訟のケースなどでは、数十億ドル規模にまで及ぶ場合もあり、また、従業員がインターネットなどを通じて、さまざまな角度から企業に関する情報を収集できる環境にあるなど、企業の訴訟リスクが高まっていることについての説明があった。
日系企業の対応としては、米国へ派遣する従業員に対して、事前に米国雇用法に関する知識を教育するほか、現地社員に自社の方針・制度を正しく理解してもらう取り組みも必要であることや、仲裁や調停など代理的紛争解決による対応も検討すべきであるとの指摘があった。また、社員による訴訟が不可避の場合は、社員から訴えられる前に、企業が原告となって、当該社員を訴える「先制的訴訟」も企業戦略の一つであるとの説明があった。
続いてフランシス・グリーン弁護士から、米国社会の人口動態の変化に伴い、家庭責任を理由とした差別による訴訟が急増しているとの説明があった。裁判所や米雇用均等委員会は、低年齢の子どもを持つ親は出張を要する仕事を引き受けるべきではない、男性は子育てすべきではない、障害児を持つ親には仕事を任せられない、などといった無意識な固定観念が差別の原因となっているとし、これらの考え方を変える必要があると述べている。
同弁護士は、採用や昇進面接の際、育児や介護に関する質問をすることは、応募者が採用・昇進されず、家庭責任を理由とした差別に関する訴訟を起こした場合、裁判所から差別の根拠とみなされるおそれがあることを指摘。また、職場で育児や介護に携わる従業員への嫌がらせが起こらないように、会社の方針をしっかりと文書化し、企業が一貫性のある対応を取ることが重要であることを強調した。
ウィリアム・ミラニ弁護士は、米国では、年齢差別禁止法により、年齢を理由に一方的に解雇したり、引き継ぎに関する計画を策定したりすることは違法となると説明。「もうあなたの年齢ならば、退職して、余生を送られてはどうか」といった発言は、年齢差別と判断されると指摘した。
また、米国の現地法人に対する訴訟であっても、本社が現地法人の人事の決定に関与していれば、米国外の解雇事例などに関する情報開示も求められること、そのため、親会社が現地法人の人事政策に関与しないことや、人事の決定が客観的な判断でなされたことを示す文書を作成すべきであると注意。同時に駐在員や現地スタッフに年齢差別に関する教育を行うことも大切で、退職計画を従業員に聞くことは絶対に避けなければならないと述べた。