日本経団連は10月26日、東京・大手町の経団連会館で中小企業委員会(指田禎一委員長)を開催し、経済産業省商務情報政策局の茂木正課長補佐から「サービス産業におけるイノベーションと生産性向上に向けて」について、井原哲夫尚美学園大学総合政策学部教授から「サービスの本質と生産性」について講演を聴取した。講演の概要は次のとおり。
国内外でサービス産業の重要性が高まる一方で、まだなお、日本国内のサービス産業の生産性は低い。その背景としては、(1)サービス産業の多様性(2)サービス産業の「新規性・中小企業性」(3)日本においては「ものづくり」は重視されてきたが、サービス産業はやや軽視されてきたこと(4)サービス産業は市場が地域に限られるゆえにグローバル競争にさらされていない産業が多いこと――などが挙げられる。
これからサービス産業の生産性を高めていくために、(1)サービス分野における科学的・工学的アプローチの拡大(2)製造管理ノウハウの活用によるサービス提供プロセスの改善(3)サービス分野における品質認証スキーム等の導入(4)品質評価のための分野横断的ベンチマークの構築(5)サービス産業における人材育成(6)サービス業のベストプラクティスの選定(「サービス業300選」)(7)サービス産業の実態把握のための統計整備(8)サービス産業のグローバル展開(9)JAPAN国際フェスティバルの開催(10)サービス産業への投資拡大と新規参入の促進(11)サービス産業におけるIT活用(12)サービス産業による地域活性化――などを推進する必要がある。
「サービス」は機能であるがゆえに、在庫がきかず輸送ができないという特性を持つ。従ってサービスの提供を受ける際に、消費者はサービスそのものの料金のみならず、サービスを利用するための交通費や利用するためにかかる時間といった利用コストを負担しなければならない。この利用コストを下げることにより集客力を高めることができるが、逆に生産性は落ちてしまう。
またサービスは、前述のとおり在庫がきかないために、時間に関する需要分布が生産性を左右する。つまり需要が時間的に偏在化していれば、供給能力の稼働率が下がり、生産性が落ちる。
日本のサービス産業の生産性を高めるためには、(1)時間に関する需要分布を平準化させ、そのために需要者となる人が必要なときにサービスを受けるために使える「柔軟な時間」を持つ必要があること(2)ITを活用し混雑情報を流すことで、需要の時間的平準化の余地ができること(3)多様な需要はサービス供給の効率を下げるので、柔軟化したサービス用機械の開発が有効であること(4)個々のサービス企業はサービス特有の性質から発生する問題を解決するために、固定費の節約、外注化、営業時間の工夫、汎用化、オールシーズン化などの対策を行う必要があること――が挙げられる。