日本経団連タイムス No.2882 (2007年11月1日)

第6回企業倫理トップセミナー開催

−企業倫理の確立・徹底へ、経営者の果たすべき役割を確認


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は10月16日、東京・大手町の経団連会館で第6回企業倫理トップセミナーを開催した。日本経団連では毎年10月を「企業倫理月間」と定め、会員各社が企業倫理の確立に向けて具体的に取り組むよう呼び掛けている。今回のセミナーは、その一環として開催されたもので、会員企業トップや役員ら400名を超える参加者を得て、企業倫理の確立・徹底のために経営者が果たすべき役割を改めて確認した。

冒頭あいさつに立った御手洗会長は、「企業倫理を徹底していくことは、個々の企業の経営基盤を強固なものとし、日本経済全体の発展につながっていく」との認識を示した上で、「経営トップが高い倫理観を持ち、先頭に立って、繰り返し企業倫理の徹底を社内に浸透させる努力を積み重ねていくことこそが、何よりも重要である」と呼び掛けた。

続いて鳥飼総合法律事務所代表弁護士の鳥飼重和氏が「内部統制と取締役の責任」と題し講演を行った。この中で鳥飼弁護士は、法律によって規律される狭義の内部統制だけを考えるのではなく、これを企業の恒久的成長の観点から広義のものとしてとらえ直す必要があることを指摘。そうした観点からみた内部統制は、経営の骨格、グランドデザインであり、経営者が自分自身の問題として自律的に、受身ではなく攻めの姿勢で取り組むべきものであることを強調した。その上で、企業の恒久的成長を達成するための内部統制の着眼点として、高い志に裏打ちされた経営理念を挙げ、経営理念は生かすべき最高規範、実践すべき行動規範であり、経営者こそが経営理念の体現者であるべきだと述べた。

また鳥飼弁護士は、最近の事例からもわかるように、今後経営者の経営責任、法的責任は格段に厳しくなり、「知らない」「聞いていない」は通用せず、実刑や相続財産の没収にまで及ぶ賠償責任も視野に入ってくるとの見方を示した。

パネル討論を展開/「安心・安全を重視した経営の確立に向けて」

続くパネルディスカッションでは、コーディネーターに日本経団連副会長・企業行動委員長の草刈隆郎氏(日本郵船会長)、パネリストに日本経団連評議員会副議長の池田弘一氏(アサヒビール会長)、桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長の郷原信郎氏、ローソン社長の新浪剛史氏、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会消費者志向マネジメントシステム特別委員長の古谷由紀子氏を迎えて、「安心・安全を重視した経営の確立に向けて」をテーマに論議が行われた。

■企業の存続に影響

まずコーディネーターの草刈氏が、「経営トップは企業活動の根幹である製品・サービスの安心・安全にかかわる事故に対し、社会が厳しい目で見ていることを忘れてはならない。対応を間違えれば、企業の社会的信用を失い、企業の存続にかかわる最悪の事態を招く恐れもある。また影響は一企業の問題にとどまらない。もし不祥事が頻発すれば、世論は過度の規制緩和がその根底にあるとし、より厳しい規制を求めかねず、そのことにより、自由な企業活動が阻害され、経済社会全体の活力を失うという結果を招きかねない」と問題を提起した。

■開かれた企業経営を

続いて池田氏は、(1)企業倫理の確立、CSRへの取り組みにおいては、ステークホルダーとの対話がカギとなる(2)アサヒビールグループの企業活動の原点は、「最高の品質と心のこもった行動を通じて、お客様の満足を追求する」ことにある(3)あらゆるステークホルダーを「お客様」ととらえ、ステークホルダーとの交流を通じて満足を追求すべきである(4)ステークホルダーと双方向の対話をしつつ、優先取り組み項目を設定し、その成果を情報開示しながら、開かれた企業経営を実現することが重要である――と述べた。

■消費者の視点で行動

古谷氏は、企業の安全・安心への取り組みには、いまだ不十分なところがあるとの見方を示した上で、消費者の安心を得るためには企業が消費者とのコミュニケーションを十分に行った上で、消費者の視点に立った安全、品質の確保のための行動を取ることが必要であると指摘した。また、安全・安心を実現するための具体的な基準や指針を策定することの重要性を強調した。

■「お客様を守る」

新浪氏は、法令や企業倫理を順守するということは「お客様を守る」ということであると指摘するとともに、安全で消費者が安心できる商品を提供するために、どのようにして商品の品質管理を行うべきかについては、「品質管理を行う部門の意見が製造部門の意見に優先するよう、社長自身が品質管理部門を守る」「リスク管理を行う部署が社長に対して物申せるような仕組み・風土をつくり、取締役会がそれを守る」「情報開示を第一として隠蔽をなくす企業風土を醸成する」ことが必要であるとの考えを示した。

■可能な限り情報開示

郷原氏は、従来の企業は安全さえ確保していれば批判を受けなかったが、最近はデータ改ざんなどを行うだけで大きな批判を受けるようになるなど、「社会のトレンドが安全から安心へと大きく変化している」と述べ、企業に対して、情報を可能な限りありのままに開示するよう求めた。また、不祥事発生など「有事」の場合は、平時のリスクマネジメントとは異なる要素が発生し、法的責任だけを考えていたのでは適切な対応はできないと指摘。「有事」の際に、国民の目を意識して動く官庁とのコラボレーションが可能となるように、平素から情報交換を行うなどの体制づくりに努力する必要があると述べた。

【社会第二本部企業倫理担当】
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