日本経団連タイムス No.2875 (2007年9月13日)

経済法規委員会企画部会を開催

−ブルドックソース事件最高裁決定と今後の買収防衛策聴く


日本経団連は8月31日、東京・大手町の経団連会館で経済法規委員会企画部会(八丁地隆部会長)を開催した。同部会では、西村あさひ法律事務所の武井一浩弁護士を招いて、ブルドックソース事件と今後の買収防衛策実務および制度インフラへの影響について説明を聴取するとともに、意見交換した。

武井弁護士は、ブルドックソース社による買収防衛策を法令に違反しないと認めた8月7日の最高裁決定は、会社が買収防衛策を導入できること自体を認め、「差別的行使条件付新株予約権は常に株主平等原則に反しており違法」との一部の説を完全に否定したと解説。TOBで株主意思を直接問えば十分との声もあるが、裁判所はそれも否定したと指摘した。「諸外国でも15%超などの筆頭少数株主となるのは自由無規律ではない。本件では取締役会との事前折衝なしにTOBをいきなり開始しているが、米国なら(シャドーピルを含め)ライツプランの存在によりそんなTOBはできない。英国でも、TOBを行って50%超持てなかった以上、応募のあった数%すら買えないばかりか対象企業への買収行為が今後1年間禁止される可能性がある」と解説した。

防衛策の必要性の要件については、裁判所は、明示された株主の意思を否定することは原則としてしないというスタンスで三審通じて一貫していると解説。また、防衛策の相当性の要件については、細かな要素を列挙して認定をした地裁決定、原告を濫用的買収者であると必要性を認定して要素を減らした高裁決定に比して、最高裁決定では「有事の株主意思」と「金銭補償」という二つの要素を採用・重視したと分析した。

このうち「金銭補償」については、今回の事案では買収防衛策が、(1)有事に買収者に予見可能性なく導入され、かつ(2)有事に現に発動させるものであったことのバーターとして要請されることが、判旨から感じとれると分析。適正に設計された平時導入防衛策(事前警告型の一種ともいえる条件決議型などの日本版ライツプラン)の下であれば、金銭補償がなくともよいと考えるのが合理的であるとした。平時導入防衛策は、グローバル化した資本市場に上場している企業が「資金さえ集まれば土足で踏み込まれる」ことのないよう一種の「玄関」を設け、「呼び鈴を鳴らさず侵入した者には番犬が噛み付く」仕組みである。主要資本主義国とのイコールフッティングの観点から、その導入の必要性と合理性を説き、予見可能性を担保するよう、番犬が飛び出す(発動)条件や番犬に噛まれた効果(希釈化の程度)等が明示されるとした。

さらに、武井弁護士は、今回の最高裁の考え方を踏まえ、今後、平時導入防衛策に関する制度インフラとして、(1)買収者への金銭補償は必要条件ではないこと(2)「有事の株主意思」は総会特別決議でなくてもよいこと。すなわち、定款変更を経た総会決議や有利発行決議によって問われるのではなく、「取締役の選解任」という本来の総会決議事項によって問われることで法的には十分であるべきこと(米国も同様。特に日本の会社法では、取締役の解任が正当理由なしに普通決議でいつでも可能であり、主要資本主義国中、最も株主側有利にできていると指摘)(3)防衛策の導入自体は法的には取締役会決議によって可能であること(なお(2)(3)については会社法施行規則127条で既にその礎はあると指摘)(4)企業価値向上のために責任を負うのは株主というより会社役員なので、買収に直面した対象会社の役員が一定の適正な行動規範を順守していれば、その判断が司法的にもある程度尊重される仕組みが導入されるべきこと(米国の判例原則「ユノカル基準」の日本版)――を指摘した。

一方、武井弁護士は、金融商品取引法の改正による全部買付義務の拡大など規制による買収防衛強化の選択肢については、友好的買収までをも過度に制限するデメリットの方が強いとし、あくまで今回の最高裁決定で適法性と実効性がかなりの程度確認された平時導入防衛策の選択肢を推進すべきであるとした。

【経済第二本部経済法制担当】
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